鼻を切られた爺さん |
ある所に二人の爺さんが隣り合わせに住んで居った。
其の家の境に板塀があって、片方の爺さん所の柿の木の枝が、塀を乗っ
越してお隣の爺さんの方へ伸びて行った。
お隣の爺さんは怒って、鋏でチョンチョンとその枝を切ったので柿の木は枯れてしまった。
片方の爺さんは大事な柿の木を枯らされたので怒って、お隣りへ力んで行くと、
「塀の外へ出た物やなにゃあ切るのは当り前だ、此れからだって出た物は切っちまう」
と云った。
「いまいましいけれど、そう云われて見りゃあ仕方がない、何時か仇を討ってやれ」
と思って待って居ると、そのうちにお客様が来たので油揚を拵えて御馳走にしてやった。
そうすると其の油揚の堪らんいい匂いが、お隣の爺さんの方へ匂って行った。
油揚の好きなお隣の爺さんは、もう堪えれんようになって、
塀の穴から隣りの方へ鼻を突き出してその匂いを嗅いで居った。
それを見た此方の爺さんは、鋏を持って飛んで行って、
「他人の領分へ此んな物を出しゃあがった」
と云って、其の鼻の頭をチヨキンと切ってしまつた。