機 一反 千両 |
昔或る所に息があった。
或る日山ん中で仕事をして居ると、猟師がやって来て、其処へ舞って来た雉の鳥を撃
たっとした。
それを見た其の息は
「可哀相だで其の雉を撃つ事は止して呉れんか」
と猟師に頼んで助けてやった。
そうして家へ帰って来て御飯を食べて居ると、そこへ奇麗な娘が尋ねて来て、
「是非わしをお前さんの女房にしてくれ」と頼む。
その息は「お前さんの様の奇麗な人は俺見たいな者の所へ来んたっても、
いくらでも良い所へお嫁に行けるでそうおせな」と云って断ったけれど、
娘はなかなか聞かず、二人はとうとう夫婦になって仲よく暮して居った。
そのうちに其のお神さんは
「機を織りたい」と云うので、
「そりょあよからず」と云う事になった。
お神さんは
「わしが機を織って居る間は何事があっても覗いて見ちゃあ困る」
と云うので亭主は云われた通り毎日山へばっか仕事に行って、お神さんの機を織る所は見
んけれど、部屋の中からチャンチャンコロコロ チャンチャンコロコロと、良い音が聞えて居った。
亭主が山から帰って来ると、お神さんは奇麗な反物を持って来て、
「此の反物を町へ持って行って千両で売っておいなんしょ」と云う。
亭主はびっくりして
「いくら奇麗な反物だっても千両なんて売れるものか」と云うと、
「いいえ、機一反千両と呼ばって歩けば、きっと売れますから売っておいな」
とお神さんが云う。
亭主は仕様がないからお神さんに教わった通りに町を呼んで歩いたら、
本当に千両で売れてしまった。
それから後は毎日毎日奇麗な反物を織っては町へ売りに行って、
二人は大へんに身上がよくなった。
「機を織る所は決して見て呉れるな」
とお神さんに云われて居たけれども、どうも不思議でならんもんで、
或る日亭主は山へ行く途中から引っ返して家へ帰って来て、
障子の穴からそうっと中を覗いて見ると、一羽の雉の鳥が自分の羽根を機に織って居った。
それを見た亭主はびっくりして声を出したので、
それを聞いたお神さんの雉の鳥は
「長い間御世話様になりました」
と云って其処を出て何処へ行ってしまった。