法眼様と狐 |
むかし一人の法眼様があった。
或る日野原を通りかかると道端に狐が昼寝をして居った。
法眼様は何か悪戯をして見たくなったんで、狐のお尻へ法螺貝を
すると狐はびっくりして眼を覚まして、丸くなって山の方へ逃げて行った。
法眼様は、「こりゃあ面白かった」と思って居ると、
かに真暗くなり、夕立雨がポツンポツンと降って来た。
法眼様は困って、其処らをうろうろして居ると、
向うの方からチンポンガラン チンポンガラン とお葬いがやって来た。
法眼様はおっかなくなって、側の木の枝へ登って、しっかりとしがみ付いて居ると、
お葬いは其の木の下まで来て、其処へ棺桶を下ろし、提灯の火で棺桶に火を點けて置いて、
皆は何処かへ行ってしまった。
法眼様は愈々おっかなくなって、震えて見て居ると、
その中に棺桶がパチンと割れて、中から死人がフラフラと立ち上がって、
袖や肩の火の子を払いながら、アッツポッポ、アッツポッポと云って
法眼様ののして居る木へ登って来る。
法眼様は「こりゃあたまらん」と、だんだんと上の方へ登って行って、
一ばんてっぴんの枝につかまってブルブル震えて居ると、
死人も段々上の方へ登って来て、今にも法眼様の足に取っ付きそうになった。
法眼様はおっかないので夢中になって、刀を抜いてスタンと斬り付けた。
そうすると死人は火の玉になってストーンと落ちたかと思うと、急に方々が明るくなった。
気が付いて見ると、法眼様は田圃の土手を一つ一つ登ったり下りたりして居ったのだった。