金杓子屋の傳兵衛 |
昔信州の山ん中から江戸へ行って、金杓子の商売をして大変に身上がよく
なった傳兵衛と云う男があった。
ある年、江戸が大火事で、傳兵衛の家も丸焼けになってしまったので、焼け跡へ仮名で、
金杓子屋傳兵衛が亀井戸へ引っ越し申し候と書いた立て札をして、亀井戸へ引っ越して行った。
江戸が大火事だと云う話を聞いて、傳兵衛の親類の者が心配をして急いで江戸へ飛んで行った。
そうして傳兵衛の家のあった所へ行って見ると、家は丸焼けで、その跡へ立て札が
してあった、親類の者はその立て札を見て声をあげて泣き出した。
通りかゝった人が、「お前様は何故
親類の者は、
「マア此の立て札を見ておくんな、カナシヤ クヤシヤ デンヘイガ メイドへヒッコシモウ
シソロ と書いてある、傳兵衛は死んで冥途へ行っちまった」と云って泣いて居った。