昔ある所(とこ)に耳の遠いお爺さんがあった。
そのお爺さんはお豆腐屋をして居った。
或る晩近所の人が豆腐を半丁買いに来た。
「お爺さんお爺さん、豆腐を半丁売っとくれ」と云うと、
耳の遠いお爺さんは「何、遠くで半鐘が鳴るって」と云う。
「そうじゃない豆腐へ」と云うと耳の遠いお爺さんは すました顔をして
「遠くならいいわ」、と云った。
それでその人はとうとうお豆腐を買えずに帰ってしまった。
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