父様恋しやほうやれほ |
昔ある所にお竹とお松の姉妹があった。
お母様に早く死に別れて、お父様に育てられていたが、その中お父様が継母をむらった。
継母はお竹とお松が憎くて憎くてしようがなかった。
ある時、お父様が町へ買い物に行くと云って、「帰りに何を買って来て遣らず」聞くと、
お竹は「銀の簪」
お松は、「笛と太鼓がほしい」と云った。
「そいじゃあ、買って来てやるでいい子で居れよ」と云い置いて、
お父様が町へ行ったあとで、継母がお竹に、
「これでお釜へ水を一杯汲んでくりょう」と云って笊を渡した。
お竹は川端へ行って水を汲まっとしたが、笊ではどうしても汲めんもんで、
シクシク泣いて居ると、一人の坊様が来て、
「どうして泣いとるんだ」と聞いた。
お竹が泣く理由を話すと、
「それじゃあこうして汲め」と云って、
着ていた法衣をぬいでジャプンと水をしめして、笊へ入れて、
釜ん所へ持って行って、法衣の水を釜の中へしぼり込んで見せて呉れた。
お竹はその法衣をむらって、坊様の仕たようにして幾度も水を汲んで居る中に、
釜一杯になったもんで、継母の所へ行って、
「お母様 お母様、お釜の水が汲めました」と云うと、
継母は、
「そうか えらい早かったなあ」と云って釜の蓋を取って見て、
お松を呼んで、石をひろって来て、それで火を焚いてお釜の湯をわかせ」と云った。
お松は表で石をひろい乍ら泣いて居るとまた坊様が来て、
「何で泣いとるんだ」と聞いたもんで、
泣く理由を話すと、
「それじゃあこのとぼし油をやるで、これを石へ掛けて置いて火を燃やして見よ」
と云って種油の這入った瓶をくれた。
お松は云われた通りにしてくどの火をたいて居ると、
そのうちにお釜の湯がグラグラ煮え立って来た。
お松が継母の所へ行って
「お母様 お母様、お釜の湯がわきました」と云うと、
継母は、
「そうか えらい早かったなあ」と云って釜の蓋を取って見て、
お竹を呼んで、お松と一緒に、いきなり釜ん中へ突き込むと、そのまま
蓋をして二人を殺してしまった。
継母は二人の死骸を裏の竹薮へ埋けて知らん顔をして居ると、
お父様が二人の娘へお土産を買って帰って来て、
「お竹とお松はどうした」と聞いた。
継母は、
「二人共遊びに行ったっきり、まだ帰って来ん」と嘘を云って居った。
お父様は
「そうか」と云ったが、何だか心配で、
「どこへ行っつらなあ」と云いながら裏へ行って見ると、
竹薮に新しい筍が二本出て居った。
今頃こんな物が出るのは変だと思って一本ポキンとおしょると、
その筍が
「父様恋しや ほうやれほ、銀の簪やいりません」と云って泣いた。
そこでもう一本、ポキンとおしょると、また、
「父様恋しや、ほうやれほ、笛も太鼓もいりません」と云って泣いたもんで、
急いで筍の根本を掘って見たら、二人の子供がいけてあった。
お父様は初めて継母のしたことが判り、すぐに継母を追い出してしまったという話。