嘘のつきじまい |
一日に一度は嘘を云わんと気がすまんと云うお爺さんがあった。
そのお爺さんがもう一と晩寝ると百二つになれると云う大晦日の晩に死んだ。
その死ぬ時には近所の人達や親類の衆が大勢集まって来て居った。
愈々息を引きとると云うきわに
お爺さんは皆を枕元に呼んで遺言をした。
「私は今まで皆のお世話になって、
百の余にもなるまで長生きをしたが、今夜は愈々お暇だ。
就いては長い間皆にお世話になったお礼をせにゃあならんが、
相憎と何もない、只私が少しづつの小遣をためて、
箱へ入れてあの庭の柿の木の下に埋けてあるで、後でそれを掘って皆で
分けてくりょう。」と斯う云った。
皆の衆は「いくら嘘つき爺さんでも、死にぎわにまで嘘は云うまい」と思って、
皆で柿木の下を掘って見たら、成る程古臭い箱が出てきた。
皆は喜んでその箱の蓋をとって見ると
金は一文もなくてそのかわりに紙切れが一枚出て来た。
ようく見るとその紙に「嘘のつきじまい」と書いてあった。