第二十章 遠山のうち二十五の山々の沙汰 大木きり出せし道品の事
大木伐出(たいぼくきりいだ)せし山々は都合して二十五也。青崩山、梶谷山、池口山、満澤
山、上澤山、唐澤山、鹿々原山、中白山、小笠山、押澤山、伊藤山、程野山、日影尾山、利剣
山、馬入渡(ばにゅうど)山、西澤山、東澤山、戸中山、鹽代山、神領山、一之澤山、濁澤山、
灰之澤山、詰澤山、丸畑山。
伐出せし木は槻(けやき)、檜、栂(とが)、樅、鹽地(しほじ)、姫小松、粟などなり。
これらの山々今までゆきゝまれなる所多し。又里ちかき山には山里ありといへども、深山の人
々は里へ出ることなければ、里人とはすこし異にして、言葉もわかちかねつる所も有しが、此
度の山入より、物なれて知らぬこともおぼへて、山ざとのさいわいとなれり、又奥山はゆきゝ
なくして、其あたりにすむ人もゆかざるに、いつとなく路をひらきて、今は足のとゞくほど
は、樵することと成ぬるゆへ、山住の人は都の大堂のことによりて、里のにぎはひとなること
と悦しも、全くほとけの御めぐみとぞ覺ゆる。
此外にも奇談多かりけることなりしかども、あまりくだくだしければ、こゝにて筆をとゞむ。
平安李香堂蔵