狐の話     

収録者  伊藤 善夫 信越放送飯田支局長
話 者  鎌倉 民  収録日 昭和56年10月27日

 実に、キツネというものは不思議な生きもんであります。
まんだ、わしが若いころで、50年ばか前のこんになるが、ある晩、川向こうの友だちん
とこへ遊びい行った。

 そのうち、でえぶ話しこんだんで、まあ今夜はこの辺でと、
腰を上げ(うち)い帰ることにした。
 外は真っ暗闇(まっくらやみ)で、へえ、真夜中(まよなか)ころだったと思う。
川を渡る途中、ひょいと東の山のほうを振り返って見たら、嫁入りのちょうちん行列のよう
に、ずうーっと火が長く
(つら)なっとる。 わしゃあ、こんなのを初めて見たが、ハハン、これがむかしの衆がよく言う、狐の火だなと思った。
なんしろ、たまげるやらびっくらこくやらで、わしゃあ、夢中で逃げ帰り、布団ん中で(ふる)えとった。
 話あ変わるが、今あ、川の魚は漁業組合ちゅうものができて、無敵(むてき)さんぼうに魚あ()っちゃ
いかんとゆうことになっとるが、
むかしゃ、川の魚はだれでも自由に捕れたもんだった。
おまた干しと言って、川干しした川下に、(よう)さ、ヤナという仕掛(しか)けをこさえる。
そこへ、魚を追い込んで
一網打尽(いちもうだじん)(つか)まえるつうこんだが、ところーが、川干しするちゅうてっと、
必ず狐が出てきてその魚を
ぜえんぶさらって行っちまった。
どう考えても、実に不思議なことでありますに。

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