尾の島の八満様
むかし、信州の南に梅平という小さな部落があった。
そいで梅平には、八満様というでーかい神様がおって、その八満様には、八平・満平という子供がおった。
それでもう二人ともでかくなったもんで、どっちかがその八満様をつぐことになってな。
そしてとうとう取っ組み合いのけんかにまでなったんだー。
それは、部落中広がるほどだった
―八平・満平どちらも強かったもんで、なかなか決まらなかった。
でもな、こうなったんだ。
―ふと弟の満平はみるみるうちに兄の思うように……
―いや、わざとかもしれない、なぐられても、けられても、たおされても、兄にかかってこなくなった。
「どうした、満平。もうこうさんか?」
満平は言った。
「八平あんにいには、かなわんわ強いでーえ。おれもうあきらめたよ。じゃあ、バイバイ。」
満平は、あっけなく言うと、旅仕度をしてスタスタとと梅平の部落に手をふり、ニコッと笑い、飛んでいってしまった。
兄の八平は、ただぼうぜんと口をあけていた。
ニコッと笑い、飛んでいった弟の満平は、兄との取っ組みあいのけんかで、本当は無理と負けたんであった………。
それから満平は心を決め、今の尾の島という部落に小屋を作った。
十日ほどで、やっとできあがり(さてと、早くこいよ人間様、―金がほしいなー)と人間様を待っていたが、だれもこない。毎日が、貧乏なくらし。
食べるもんも、少なくなって、とうとうきび一こだけになってしまった。
「ああ ― どうしよう〜〜。」
"修業″満平の頑に浮かんだ。
あの寒い所は苦手な満平だったけれどある秋の日、北の上村へ満平は修業に行った。
行く途中、ふと、一ぴきのさるにであい、仲よくなった。
そして、今までのいきさつなどを満平が、このさるに話すと、
「満平さんって、兄さんおもいなんだな。」と、さるは言った。
「あ、わすれていた。おまえの名前を聞いていなかったよ。なんて言うんだぁ。」
「チイっていうんだ。仲間のみんなからつけられたんだ。でも、おれその仲間から逃げてきたんだ。小さないたずらをして、それで、だれがやったと聞かれても、あやまるのに勇気がなくて………、おれって弱虫なんだよ。仲間にきらわれるのが、こわいんだ。だから、にげてきた。」
すると満平は、
「バカやろう!きらわれたっていいじゃないか、死にゃあせんわ。そんなちっちゃな心だと、これからは、何をやってもおもしろくない。だから、堂々とあやまってくるんだよ! 勇気がなくたって言わにゃいかんことだよ! おめえ、それでもさるかよ!」
うつむいていたチイは、頭をあげた。
そして、
「うん、あやまって……、あやまって……、あやまって……。」
「どうした!!」
「くる……ううん、あやまってくるよ。……きらわれても、おれがまいた種だもん。花が咲くまで、あやまる。……ナンテ!!」
「このやろうめが!」
また十二月に、チイが尾の島にくるということも、この日にやくそくした。
チイが、おまつりに参加したいと満平にたのんだからであった。
― そしてチイは、仲間のいる山に行き、満平の方は尾の島にきて、おまつりの用意を始めた………。
―気が早い満平だった。―
寒い日がつづく
月日はたった。
十二月がやってきた。
とても寒い十二月で、チイはしんみりとする寒さで、上村からは、これないと満平は思った。
満平は目をつぶり、雪の降るしんみりさを聞いていた。
―聞いているうちに、とうとう寝てしまった。そして何時間もな………。
目をさますと、あれ? 前には、あの時やくそくして上村の山に行ったチイが、チィが、にこやかに立っていたんだった。
「チイ!!」
満平は、チイをだきしめ、会えた喜びで、何も言えなくなってしまった。
「満平さんやるよ。心がすっきりしたおれだから。」
泣きながらチイは、言い続けた。
「おれ、満平さんを信じて、きらわれてもいっしょうけんめいあやまってきた。最後には、許してくれたけど。―その時って本当うれしかったんだ。エーン。」
「そうか、そうか、チイ、よくやってきた。泣くなよ。」
そして数時間たち、お祭りが始まった。
満平は太こをうち、チイは踊った。
(テンテコ、テン テンテコ、テン)
一人の子供が入ってきた。二人の年寄りが入ってきた。六人の青年が入ってきた。
そして、最後にはお宮いっぱぁーいの村人たちが入ってきた。
チイは、いっしょうけんめい。
でも、なぜかさるなので、頭とおしりが赤くなるだけで、あせがあんまり出なかったけど、踊りに熱がこもっていた。
満平の方は、村人からのさし入れの酒を飲み、タイコの音は、天までとどくぐらいの勢いがあった。
酔っていたけど、たたきながらチイを見、心の中で感謝していた満平だった。
尾の島の八満様は、それからなお十年も二十年も三十年もつづいている。
今だって、十五日になれば、あのチイがきて踊るんだよ。