キツネ、物語 2010.07.10

時又村の丘の上には鎮守の神様が祭られています。
川を見下ろすその丘の中程に、お稲荷さんが有りまして、赤い鳥居が三本ほど立っております。
大きくは無いものの、きちんと掃除された祠が有りまして、新しい油揚げが供えてある。
この祠の番狐をしておりますのがゴン太と言います、
村人がかってにそう呼んでいるのですが、本人もポチと呼ばれるよりはまし、と黙認しております。

昨夜はよそ者のクマが村の近くまでやって来まして、
そのクマが悪さをしないか一晩中見張っておりましたから、キツネと言えど眠い。
幸い明け方にはクマは帰って行きましたので、一安心して祠の中に潜り込み、
供えてあった油揚げを飲み込むと、これからちょっと一寝入りと決め込んだゴン太です。

そんな時、おヨネさんがやって来ました。
このおヨネさん、男の子を亡くしたばかり、
もうすぐ三つに成るから、お祝いでもしようかと思っていた矢先で、
ご飯も通らないくらいに臥せっていたはずです。
そのおヨネさん、膝をついて荷物を置くと、手を二つ叩く。そしてしっかと手を合わせます。

「お稲荷様、お願いに来たんだに。このおヨネの為に、ゴン太をお借りしたいんであります。」
そのゴン太、だいたい想像しておりましたから、目は閉じたまま、前足にあごをのせて動きません。

「うちのタイチが逝っちまって、七日が過ぎたんだけど。そろそろ賽の河原に着いたと思うんだに。
 七日は何も食べずにおったはずだし、毎日石を積んどるはずだで。きっとひもじいに違いない。
 うちは貧乏で、親孝行というか都合良くといいますか、あの子は砂糖菓子より芋の方が好きだもんで、
 口に入るように小さい芋を選って煮転がしたんな。
 悪くなるといけないから、ちょっとよけいに煮たもんで、ちっとだけ焦げちまったけど、、、」

持って来た荷を解くと、お椀に一杯の芋が入っています。
「瀬戸もんだと割れるといかんと思って、亭主のお椀に入れて来たんだけど、
 もしなんだったらお椀さら持てってもらってもいいんだわ。
 それに、このあいだ、うちのイワナの一夜干し、ゴン太がいやゴン太様が盗ったの許すで、
 隣のミケだって亭主は言うんだけど、吊るしてあった麻紐まできれいに噛み切ってあったら、
 ミケはもう年だで、麻紐は噛み切れんに、私にはすぐに分かったけど、無かった事にするで、
 、、、、、、、、、、、、、
 あの子、きっと、自分が早く死んじまったもんで、親不孝もんになっちまったって思っとる。
 でも、そんな事は無いんだに。、、、ゴン太さま、タイチに言ってやてほしいんな、、、
 ぁんな、タイチが生まれてから、ずっと楽しかった。幸せだったんな。
 とってもとってもきれいな思い出が、たくさんたくさん残っとって、、、だもんで母さんは大丈夫。
 タイチの事は忘れんし、大好きだし、これからもちゃんと生きて行ける。、、母さんは大丈夫。
 、、、、、、、、、、、、、
 だで、タイチも泣かんように頑張って、、、盆正月は幽霊になってこい、待っとるでな。
 そうあの子に言ってやって欲しいんだに、、、伝えてほしいんだに、、、」

少しの静かな時間をおきますと、おヨネさん、もう一度手を合わせます。
芋のお椀を祠の前において、小さく頭を下げると帰って行きました。
足音が遠く、聞こえなくなりますと、ゴン太の目が薄く開きまして、大きなあくびを一つ。

よその国のキツネは分かりませんが、日本のキツネは人情に弱い。仕事と言えばおしまいですが、
この後、ゴン太は賽の河原へと向かう訳ですが、お時間のようで、
ゴン太、最後の旅
続く、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、