キツネ、物語2 2010.07.11

おヨネさんが立ち去って、
足音が遠く、聞こえなくなると、ゴン太の目が薄く開きまして、大きなあくびを一つ。

さて、ここの祠、小さいもんですから宮に付き物の鈴がございません。
鈴があればお参りに来た事が神様にも分かります。
からんころんと鳴れば、神様が急いで駆けつけてくれるのですが、
鈴が無いから仕方ない、誰か来た時はゴン太がサッーと呼びに行く訳です。
だからもし土地を離れるとなると、神様のお許しを頂かなければいけません。そこへ、、、
「ゴン太、いくのか、、、」と、誰かの声。
「なんだ、神様いたのかい、」
「いたのかい、は無いだろう。私はここの主だからいても不思議じゃない。」
「そりゃそうだ、、、、、、眠いけど、行くわ。留守にします。」
「気をつけて行けよ、明日の朝まででいいから、慌てるな。きっと帰ってこいよ。」
まるで長旅のようないい方ですが、キツネにとってはひとっ飛び、よけいなお世話と言いたいところを、
それでも、小さくうなづきまして祠を出ます。

持って行っても良いと言われたものの、お椀のままではかさ張りますから、近くのフキの葉を採りまして、
お椀から芋を移します。巾着のように葉を絞り口を留めますと、フッと息を掛けます。
するとそのフキの巾着袋が、背中の毛の中に、煙のようにとけ込んでしまいました。
どんなキツネでも少しは妖術を使えるものでして、まさか風呂敷包みを背負っては走らない。
でも、それではイメージが湧かないと言うのであれば風呂敷にしましょう。
フキの葉に息を吹きかけると、一枚の風呂敷に変わります。
芋をもう一枚のフキの葉に包んで、風呂敷で首にくくり付けますと大きなあくびを一つ「ねむい」
前にも書きましたが、日本のキツネは人情に弱い。眠くてもまいります。

どこに賽の河原が有るのかは、諸説はあってもはっきり致しません。
キツネにとってはひとっ飛びでも、人間が行くには困難の山、遥かに雲の彼方でございます。

黒い雲がそらを覆いまして、いつ雨が降ってもおかしくはないような空、
遠くに三途の川が油ように音も無く流れ、そこまでは遥かに続く石の河原。
よく地蔵和讃などが歌われているように語られますが、実際には恐ろしくなるほど静かなもので、
石を積むコツコツという音と、石が崩れるガラガラという音しか聞こえてはまいりません。

数えきれないほどの子供が石を積んでおりまして、気の抜けた目が石だけを見つめています。
子供5〜6人に一匹の鬼が見張っておりまして、時々、金棒で石の山を崩しては、小さく笑うのです。
せっかく積んだ石が崩されても、子供たちは泣く事も無く、黙々とまた石を積み始めるのです。

「いつ来ても陰気なところだね。こっちの気まで吸われちまいそうだ。
 えーと、時又村のタイチはどこだっと、、、おヨネさんに似て丸くて元気そうだったのに、
 ヤンか過ぎたんだな、鎮守の石垣から飛び降りちまって、三つの子じゃ無理に決まってら。
 タイチ、、、時又村のタイチはどこだ、、、っといけね、大きい声は禁物でした。
 、、、おっいたいた、まんじゅうのようなほっぺたはタイチだ、間違いない。
 タイチを入れて子供が五人。一生懸命石を積んでるね、、、
 あの赤鬼が見張りだね、退屈そうにしてやがる。金棒で耳をほじってやがって、
 でかい耳の穴だね、向こうの山が見えそうだ。」
ゴン太は静かに赤鬼の足下へ近づきます。鬼は気づかぬふりで耳をほじり続ております。
「赤鬼さま、赤鬼さま、お願いを申し上げます。、、、なんでぇ、聞こえないふりか?
 赤鬼さま、謹んで、お願いを申し上げます。お聞きくださいませ、、、」
面倒くさそうに足下を見下ろしますと、金棒をゴン太の目の前にどすんと着きまして、
「時又村のゴン太、聞いてやろう、申せ。」
「知ってんじゃネェか、こっちだって神様の使いなんだ、偉そうに、、おっと、我慢我慢。
 時又村のタイチに、お声掛けをお許しくださいませ。」
「ダメだ。とは言わんが、分かっておるな。」
「分かっております。」

またもや続きと相成ります、、、