遠山の盆おどり

  
 かつて、南信濃村(現在、長野県飯田市南信濃)の代表的な盆踊りといえば、
「のーさー」「せしょう」「源吾兵衛」

なお隣村の上村は、「よこばば」「のーさー」「絵島節」など。

「絵島節」は、江戸から高遠藩に流された絵島の哀歌で、なぜか高遠で伝えられることなく、

上村で伝承されている。この絵島節は、民謡歌手の金沢明子デビュー作。
 

 
wikipedia 絵島
  

「のーさー」     草刈などの作業唄といわれる。
   
     主と二人で、 朝草刈りに  お前二把刈りゃ ノーサー わしゃ三把
     高い山から  谷底みれば  うりやなすびの ノーサー 花盛り
     踊らまいかよ 踊らせまいか 年に一度の   ノーサー 盆じゃもの
     

「源吾兵衛」     げんごべいと読む。
 
     源はみなもと 藤はふじと読む  ヤレなぜに吉の字は よしと読む
     殿は燈すみ  百姓は油     ヤレしぼりとられる 殿様に
      鮎は瀬にすむ 鳥りゃ木にとまる ヤレ人は情けの   下に住む

           - 踊り方 -
     
     1 輪の内側を向いて立つ。トコショイの掛け声をかけ、1拍手拍子を打つ。
     2 右足を、右側に一歩出し、続いて右に体を移動する。
       同時に左足を右足に寄せ、1拍打ちながらトコショイの
       掛け声をかける
     3 次に、左側へ2と同じ要領で一歩移動し、1の位置に戻る。
       トコショイの掛け声とともに1拍手拍子を打つ。
     4 左に体を向け、コブシにした右手をかつぐ。
       同時に、右足を1歩踏み出す。
     5 左手を、4とおなじ要領でかつぎ、左足を1歩踏み出す。
     6 右足をその場で上げ、同時に両手を胸のところで交差してから
       斜め下に開く。この動作を3回繰り返す。
     7 4の要領で、1歩進む。
     8 5の要領で、1歩進む。
     9 4の要領で、1歩進んでから左足を軸にして、右手をかついだまま
       右回り反対方向へと向きを変える。
     10 左手をかつぎ、左足を1歩踏み出す。
     11 内側を向きながら、右足を左足に引き寄せ、1と同じ要領で1拍する。
     12 以下、2〜11を繰り返す。    
        
     

「せしょう」     相撲甚句から発生したものといわれ、相撲の所作をして踊る。

     盆にゃおいでよ 正月はこでも 死んだ仏もセショウ 盆にゃくる
     盆よ盆よと 盆まちかねて   盆がすぎればセショウ なにを待つ
     浅い川なら 膝までまくる   深くなりゃこそセショウ 帯をとく

                                             

                - 踊り方 -

     1 両足をそろえ、輪の内側を向いて立つ
     2 パン、パンと3拍手拍子を打つ
     3 両手を、同時にうしろから振り出し、右足・左足を交互に地面を蹴る。
     4 左足を、右前足に踏み出す。同時に左腕をかぶせるよう体の前に振り
       出す。
     5 左足を、元に戻しながら両手で左側に払う。同時に体の向きを輪の左
       進行方向に変える。
     6 左足から、3歩手拍子を打ちながら進む。
     7 輪の内側を向き、3の動作を繰り返す。
     8 以下、4〜7を繰り返す。

            

                      - 盆踊りうた 南信濃村史より抜粋 -

よいそれ」

   
  戦後、「よいそれ」という盆踊りが爆発的に流行し、村の中心地は踊りの輪に
     うめつくされました。
    伝え聞くと、当時、岡谷市の製糸工場へ出稼ぎに行った若者が持ち帰ったものと
    いいいます。
    娯楽の乏しかった往時の人々のこと、そのリズム感と音頭とりの即興的な歌詞に熱中し、
    ひととき心のやすらぎを覚え、踊り明かしたのでした。
    だが、いつしかこの盆踊り唄も消えていって、これも時代の趨勢かと、いたずらに
    往時を懐かしむばかりです。
    
 なお、平成16年4月の御柱祭り前夜祭で、「町内よいそれ流し」を行いました。
     

  

遠山流し音頭            (通称よいそれ)

一 貴方百までわしゃ九十九まで   共に白髪のはえるまで
二 嫁にとるなら遠山娘       地味で素直で器量よし

三 一度おいでよ遠山里へ     胡桃の落ちる頃
四 和田のお寺は遠山様の      昔名高い城の跡 
五 音頭とるは遠山       水の清さか声が良い
六 の心と遠山川は        荒いようでも美しい
七 昔名高い遠山様の        ご定紋だよつ引き
八 信州信濃の新蕎麦よりも     わたしゃあなたのがよい
九 色でしくじる紺屋の娘      二度と染めまい色染めに
十 踊り踊るならよく踊れ     品の良いを嫁にとる
十一 同じ花なら遠山桜       一目千両の(おも)い咲き
十二 いやと思えば姿もなりも    着てる着物ももいや
十三 唄のしは二度まじゃよいが  三度がえしはものくどい
十四 お前一人に定めておいて    浮気ゃその日の出来心
十五 面白いぞえ津島の祭り     山にゃ提灯川にゃ船
十六 親の意見となすびの花は    千に一つの無駄がない
十七 お月さまさえ夜遊びなさる   殿の夜遊び無理はない
十八 に立つひとどなたでござる  苗字名乗れよ婿(むこ)にとる
十九 恋にがれて鳴くセミよりも  鳴かぬホタルが身を()がす
二十 あのかわいいぼたもち顔で  きなつけたらなおかわいい
二十一 音頭とるならから夜明け  宵の音頭はだれもと
二十二 色で迷わす西瓜でさえも   中にゃ苦労のがある
二十三 立てば芍薬座れば牡丹           歩く姿は百合の花
二十四 あなた正宗わしゃび刀   あなた切れてもわしゃ切れん
二十五 はるか向こうの赤石山に    雪が見えます初雪が
二十六 は瀬にすむ鳥ゃ木にとまる  人は情けの下にすむ
二十七 朝日射すよな息子を持てば   夕日射すよな嫁がくる
二十八 と二人で朝草刈りに      お前二刈りゃわしゃ三()
二十九 来いと言われて行く夜の良さよ 足の軽さよ嬉しさよ
三十  松となりたい峠の松に     りの客を待つ
三十一 咲いた桜になぜ駒つなぐ    駒が勇めば花が散る
三十二 いやなお方の親切よりも    いたお方の無理がよい
三十三 切れた切れたよ音頭が切れた  かよまた切れた
三十四 声はすれども姿が見えん    姿見しょやれきりぎりす
三十五 好いて好かれてキスまでされて にゃ捨てられ巻きたばこ
三十六 わしの音頭はぼたもち音頭   つけておくれよべたべたと
三十七 さ出て見よ向かいの山で   猿がつく木の(また)
三十八 うまいものならばか欲しい  貴方九つわしゃ一つ
三十九 た揃たよ踊り子が揃た    稲の出穂よりゃまだ揃た
四十  諏訪の湖水を鏡と立てて    お化粧するなら富士の山
四十一 桑の中から小唄がもれる    小唄聞きたや顔見たい
四十二 今年しゃうれしや前田の稲が   出来てしょだれて
四十三 天龍下ればしぶきに濡れる   持たせやりたや檜笠
四十四 高い山から谷底見れば     瓜やなすびの花ざかり
四十五 来たりこなんだり遠山水よ   そんなむら気な人はいや
四十六 はみなもとはふじと読む  なぜに吉の字はよしと読む
四十七 いまの若いは踊りがきらい  椅子に(かけ色ばなし
四十八 糸をとるならむらなく細く   可愛い男の夏羽織
四十九 唄はに千ばかあるが     色のまじらぬ唄はない
五十  桜島にはがかかる      器量の良いにゃ目がかかる
五十一 金のかんざし落とすにえ   手から手渡しゃ人が見る
五十二 糸は切れ役わしゃつなぐ役   検番まわり役
五十三 浅い川ならひざまでまくる    深くなりゃこそ帯を()
五十四 今宵一夜は浦島太郎       あけてくやしや玉手箱
五十五 殿は燈すみ百姓は油       絞りとられる殿様に
五十六 わしと貴方は羽織の紐よ     かたく結んで胸に抱く
五十七 娘島田にゃ蝶々がとまる     とまるはずだよ花だもの
五十八 娘島田とお庭の桃は       少し色づきゃとりたがる
五十九 姉の霧島妹のサツキ       サツキ負けるな霧島に
六十  汽車は出ていく煙は残る     残る煙がしゃくの種
六十一 松の葉のよな狭い気を持つな   広く気を持て芭蕉(ばしょ)の葉に
六十二 唄の切れ間にひょいと出せ女子   唄でご器量はさがりゃせぬ
六十三 唄でご器量がもしさがりゃ    時の相場で上げてやる
六十四 いやな野郎めと横目で見たら   野郎め色目りゃがる
六十五 東赤石西駒ケ岳         を流れて天竜川
六十六 山で育ったわさびでさえも    末にゃ世に出てつまになる
六十七 どこで鳴くかと聞けば     可愛いさの唄の声
六十八 蕎麦がよいかうどんがよいか   少しゃ冷えてもそばがよい
六十九 可愛い主さに上下着せて     庭をはわせりゃくさ虫
七十  れておくれよ くてならぬ  私ひとりが蚊帳のそと
七十一 咲いた中見てあがれ      中にゃ鶴亀五葉の松
七十二 木曾へ木曾へとつけだす米は   信州高遠のあまり米
七十三 娘十七八させごろしごろ     親もさせたい針しごと
七十四 酒のにゃ烏賊よりよ     蛸は吸いつくからみつく
七十五 ゆうべ見た見た大きな夢を    奈良の大仏抱いて寝た
七十六 うらやましょうあの松の葉は   枯れて落ちても二人づれ
七十七 嫁と(はアザミの花よ      見ればきれいで寄れば刺す
七十八 ついておいでよこの提灯に    消して苦労はかけやせぬ
七十九 踊らまいかよ踊らせまいか    年に一度の盆だもの
八十  盆よ盆よと盆待ちかねて     盆に踊らでいつ踊る  
                       ― 平成十六年八月二十八日 川島編

 この瑞穂音頭・復興音頭も、「よいそれ」と同様によく唄われ踊られました。
 早苗節とも。

 瑞穂音頭(みずほおんど)

一 早苗(さなえ)ナアー 早苗とる手も麦踏む足も(そろ)った揃ったよ村中が揃った
  瑞穂踊りのコリャエートコドッコイドッコイサノセー
   気も揃ったコリャエー さてサアサヤレコノトコドッコイセー
二 米はナアー 米は御宝 兄さは御楯(みたて)旗で(うず)めたあの日の道も
  今じゃ黄金(こがね)のコリャエートコドッコイドッコイサノセー
  波を打つコリャエー さて サアサヤレコノトコドッコイセー

復興音頭

一 南ナアー 南アルプス(ふもと)の里に復興踊りの太鼓がなれば 
   平和日本のコリャエー
 トコドッコイドッコイサノセー 朝ぼらけコリャエー
   さて
 サアサヤレコノトコドッコイセー

二  俺()らがナアー 俺が産湯(うぶゆ)は遠山川の男度胸の荒川育ち
   たぎる流れがコリャエー トコドッコイドッコイサノセー 子守唄コリャエー 
   さて
サアサヤレコノトコドッコイセー

三  私しゃナアー 私しゃ一輪(いちりん)谷間の花よ 伊達(だて)にゃ咲かない赤石山の
   
雪の清さがコリャエー トコドッコイドッコイサノセー心意気コリャエー 
   さて
サアサヤレコノトコドッコイセー