化けたむじな

 



 山の中に年寄りの夫婦が住んで居った。

お爺さんは右の目の上に大きな(こぶ)が一つあった。

 そのお爺さんは毎日山へ木を伐りに行き、晩にはおそくなって帰って来た。

 或る晩お婆さんが待って居ると、お爺さんがいつもの様におそくなって帰って来た。

「戸をあけろ戸をあけろ」

と大きな声で呼ばるので、
戸をあけてやったらはいって来た。

 お婆さんがちょっとお爺さんの顔を見ると、右の目の上にあるはずの瘤が、左の目の上にあ

った。

「こりゃおかしい、きっと(むじな)か狸が俺をばかしに来たに相違ない」

と思ったが、そんなことは顔にも出さず、いつもお爺さんにしてやる通りに
足を洗ってやり、

夕飯を食べさせて寝かした。

 するとじきにいびきをかいて()いってしまった。

そこでお婆さんは手早く布団でぐるぐるまきにして、縄でしばってしまった。

 そうこうして居るうちに本当のお爺さんが帰って来たので、

「お爺さんお爺さん、化け物をしばったよ」

と云って、二人で力を合わせてそれを囲炉裡の上へ(つる)くし上げて、下から松葉で(いぶ)
(いぶ)して(いぶ)しからかした。

そうしたら化け物は布団の中で大へん苦しがって、とうとう死んでしまった。

 下ろして縄を(ほの)いて見たら、千年もこう経た(むじな)だった。

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