ひょこすか坊 |
昔ある所にひょこすか坊と言う人があった。
この坊さんがある日お観音様へお参りに行かずと思って、家を出る時に、
「今日はいい事がありますように」と祈って出かけた。
それはまんだ朝早くで、うすぐらい時分だった。
少し行くと道に黒いものが落ちとったもんで、何かいい物じゃあないかと
掴んでみたら馬糞だった。
一人でぶつぶつ腹を立ててみたが、どうしようもない。
又少し行くと黒い物があったので、こんどは足で力一杯踏んで見たら、落とし穴だったのでひっ轉けた。
もう腹を立てる元気もなくなってしまった。
お観音様へ行ってお参りして、お賽銭をあげて、あとで勘定して見ると、
三文あげるつもりだったのに七文あげてしまった。
「今日はまア朝からどうしたことずら」と悲しくなった。
「しかしまア神様に上げたのだでいいわ」
とあきらめながらかえって来たが、腹がへってたまらん。
近所のお饅頭屋へとびこんで、三文置いて饅頭を十つかんで逃げ出した。
すると店のおかみさんが後から追っ掛けてくるので、一生懸命逃げて、
村ざかいまで来て後をふり返って見ると、もう誰も追わいて来ん。
先ず先ずと思って、道ばたの石に腰をかけて、饅頭を食べずと思ったら、
その饅頭はかたくて歯がたたん、
ようく見ると、看板に出してあった焼物の饅頭だったもんで、
自分ながら運の悪さにあきれてしまった。
それでも三文の銭が惜いので、また帰って行って、さっきの饅頭屋へとびこみ、
「焼物の饅頭などかざって置くから悪い」とおこって、おかみさんを打っ叩いた。
おかみさんは「なにょ云うかおらほうは饅頭屋じゃあないじゃないか」
よく見たらお隣の家へとびこんだのだった。
さんざ怒られて頭を掻いてすごすご家へ帰って行った。