木の葉と咲く花の話

 

 
  むかし或る所に身上(しんしょう)の良い(うち)があって、其処の一人娘に婿を貰わんならん

事になった。

ある日、丁度秋で忙しい時分に、若い金毘羅参り(こんぴらまいり)が一人来て
(わし)金毘羅参り(こんぴらまいり)の者だが、どうか使って貰い申したい」と頼んだ。
秋の取り入れで人手(しとで)の欲しい時だったので、

「それじゃあ使ってやらず」と云って

其の(うち)では其の金毘羅参り(こんぴらまいり)を雇う事になった。

 或る日の事、越後獅子(えちごじし)がトコトントコトン ヒューヒューヒュルヒュルと(はや)しながら

やって来て、色々面白い芸当をするので、
家中(うちじゅう)の人は(みんな)集って来て見て居った。

そうすると二階から其の娘が下りて来て、越後獅子(えちごじし)のまねっくりや逆立ち(さかだち)

見て居る(うち)に、ふと金毘羅参り(こんぴらまいり)の姿を見ると、そのままふいと二階へ上って行ってしまった。

金毘羅参り(こんぴらまいり)は初めて其の(うち)の娘を見て、「何と云う名前だ」と友達に聞くと、
「咲く
花様(はなさま)だ」と教えて呉れた。

その若い金毘羅参り(こんぴらまいり)は木の葉と云う名前だった。                

秋が片付いたので、(みんな)の衆は山へ入って木を伐って居った。

木の葉はズイコズイコと木を伐りながら

 「咲く花様(はなさま)と一緒になりたいものだ」と唄をうたって

一生懸命に働いて居ると、(ほか)男衆(おとこしゅう)たちは見て笑いながら、

「馬鹿あ云うにも程がある、長年奉公して居る俺達でさえ、

一ペんもお嬢様と話をした事もないに、
新参(しんざん)の手前なんか見ても呉れるものか」

と云って馬鹿にして居った。

 その(うち)に娘が病気になった、

親たちは心配をして早速お医者様を呼んで来て
()て貰うと、

「此れは気の
(やまい)だから早く娘の好きな婿様を取ってやれ」と云う。

親達はうちの娘が
(そと)へ行って外所(よそ)の男衆を見初(みそ)めたとは思わんもんで、

「それじゃあ
(うち)ん中の男衆の中に好きなのがあるんずら、

それなら其れを
(うち)の婿にして後取りをさしたが(うち)の為だ」

と、早速大勢の男衆たちをお風呂へ入れ、

新しい着物に着替えさして、髪を奇麗に()わして、

そして
台所(だいどこ)にたらたらっと並んで坐らせた。

そして娘を二階から呼んで見せると「イヤジャイヤジャ」と云って、

トントントントンと二階へ上って行ってしまった。

親たちは困って、一人っきりあとへ残った木の葉を呼んで、

お風呂に入れ、髪を
()って奇麗な着物を着せて、

台所(だいどこ)へ坐らせて娘に見せた。

娘は二階から下りて来て木の葉の坐って居るのを見て

 「天よりも高く咲く花に目をばかけるな」と歌いかけた、

そうすると木の葉はすぐと

「天よりも高く咲く花も散れば木の葉の下に住む」と続けた。

親たちは喜んで直ぐと其の木の葉を娘の婿に決めた。

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