貂と三人の子供の話

 


  
  或る日子供が三人でお宮の森で遊んで居った。

そのうちに一番小さい子が裏の方へ小用(こよう)に行ったら、

一匹の大きな
(てん)が死んで居るのを見付けた。

その子供は帰って来て二人の友だちにそれを話すと、

「夫れは俺が先刻(さっき)見付けて置いたんだと」一番大きな子が云った。

すると二番目の子が

「イヤそうじゃない、俺の方が先きだ」と云う。

本当に見化付けた一番小さい子も、

「俺が見付けたものをそんな事を云っちゃあ無理だ」と云って三人が争って居る所へ、

白髪(しらが)の生えたお爺さんが通りかゝって、

「お前達は先刻(さっき)から何を喧嘩しとる」と聞く。

すると一番小さい子が

(わし)の見付けた貂を、他の衆が()れんだ」と云って取っちまわっとする(とこ)だ」と話した。

他の子供も負けては居らず、

「イヤ俺のだ」、「俺が捜したのだ」と云って強情を張った。

お爺さんは三人の云う事を黙って聞いて居ったが、

「ヨシヨシ()事がある、テンと云う字を一番沢山入れた歌を詠んだものが、

その貂を取ったらいゝじゃあないか」と云う。

すると一番大きい子が

  此のテンを名古屋の町に持ていたら 大きな金になろうもの

と云った。

すると二番目の子が

 此のテンを名古屋の町へ持ていたら 大きな金になるテンテン

と云って、もう此の貂は俺の物だと云った様な顔をして居った。

すると一番(しま)いに小さい子が勢よく

 此のテンを名古屋の町へ持ていたら 大きな金になるテンテン 

其のまゝ其所にスッテンテン

と云ったので、とうとう本当に見付けた三番目の子がそれを貰う事になった。

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