歌よみの話

 

 
 其の一

 夫に死に別れたお神さんが、自分の黒髪を切るときに

   長かれと願ふ命が短くて

       いらぬ(わたし)の髪の長さよ

と歌を詠んだと云う貞淑なお神さんの話を聞いた或る人が、

家へ帰って来て自分の女房に其の話をしたら、

その女房は「
(わたし)だってそんな歌位は詠める」と云うもんで、

「そんなら詠んで見よ」と云うと、斯う云う歌を詠んだ。

   長かれと願ふ布団が短くて

       いらぬ親爺(おやじ)の足の長さよ

 其の二

 娘が艶文(ふみ)を書いて居る(とこ)他人(ひと)に見られたので、

その娘は早速に歌を詠んだ。

   書くための筆だもの

       艶文(ふみ)書いたとて誰が笑わず

 この話を聞いた人が自分の娘に其の話をして聞かせたら、

(わたし)だって歌ぐらい詠める」と云って、次ぎのような歌を詠んだ。

   掻くための爪だもの

       (けつ)かいたとて文句あるまい

 其の三

 ある所の娘が稲刈りに出て野糞(のぐそ)()ったが、ふく紙が無かったので、

落ちていた柿の葉でふいた(とこ)を人に見られた。

 娘は早速に

   恥はすっかり柿の葉で

       十月はかみ無月(なしづき)と人は云ふらん

 と歌を詠んだ、と云う事を聞いて感心した或人が、

家へ帰って来て娘にこの話をして聞かせると

 「(わたし)だって歌位はよめる」と云って次の様に詠んだ。

   いま出るは左ねじ(くそ)

       口がえがむか けつが()けるか

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