遠山奇談序
松を見ればこゝろにことぶきをふくむ。
梅ときけば口にうるほひをもつ。
いでや、遠やまのことをいへば瞼岨のくるしきをわすれず。
華誘居士これが奇談を筆にあらはし、携きて序をこふ。
おのれ過しころ、大木もとめんことをかうむり山に入て此よしを見るに、
これなんよく文けり。
されは卯の花を雪かとうたがひ、雪を月とみまがふもの、いづれよく似たり。
今此文も亦、みるごとくなれば、春雨のつれづれに人の興にやならんと、筆
をとりて此はしにしるすといふ。
寛政十かへりの春盡るの日
洛陽淨林坊辨恵しるす
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