榑  木(くれき)

        



―榑木の用途と変遷― 

榑木は、単に榑ともいわれ、桧(ひのき)・杉・椹(さわら)などから製した上質材である。

平安時代の榑木は後世のものに比べて大きく、使用目的も建築用材として、主に壁柱に

用いられていた。

また榑木は、現物貨幣としての流用もみとめられており、鎌倉幕府では長さが、七、

八尺(2
.1m〜2.4m)と幾分短くなった。主な産地は中部山岳地帯。

室町時代に入ると榑木は五、六尺となり、建築用材であるとともに屋根板材・桶材・

曲木などのためのものに変わった。

江戸時代中期になると、短榑は二尺三寸。年貢榑や役榑には、この屋根板のための

(さわら)の榑木が指定された。

 そのため榑木というと、椹・ヒノキ・鹽地
(しおぢ)で割りたてた屋根板のことであり、

屋根板でない榑木は「雑榑」といわれた。(長さ三尺〜六尺五寸)

遠山谷から、七年間に三四万八二〇〇挺に及ぶ榑木を出したことから、(さわら)

減少し、椹榑木から桧榑木となり、のちには榑木のかわりに
「桧木」とかかれるように

なった。やがて、雑榑木も出されるようになった。

慶長17年 米100表は、榑木12,500

―木の種類―

 正保二年(1645)の「御料私領支配知行附」による

 門  村    桧・椹・樅・栂アリ 

 木  沢    桧・椹・樅・栂

 和  田    ひの木・さわら・もみ・つか

 八重河内    桧木・椹・樅・栂

 

―榑木を取り扱いから分類―

 

 (1) 商品としての榑木

 (2) 貨幣化された榑木

 (3) 年貢榑木

 (4) 役榑木

 (5) 御用榑木 特別に買い上げるもの

 (6) 助成榑木 塩買木、木師の許可されたもの

 (7) 小作榑木 地主へ小作料として納めるもの

 

―榑木年貢―

 

赤石山脈・伊那山脈・木曽山脈に近い伊那の村々が、規格のきまった榑木を年貢米

のかわりに出すようになったのは、寛文年間のことである。


榑木年貢を出すこれらの村を榑木成村といい、遠山六カ村(注)では、延宝五年(1677

から元禄五年(
1692)の間が榑木成村であった。

 

―お役榑木―

 

遠山六カ村の榑木成が短期間であったのは、御役榑木が多かったことが一因である。

これは慶長年中に駿府普請のため、遠山六カ村へ榑木を一カ年に五万八、八一四挺を

割り付けたのである。
代米のない御役榑木は、領民の負担が大きかったが、さらに

延宝五年から、御役榑木に御年貢榑木が重なった。

 

―御用榑木―

 

 これは年貢榑木ではなく、請負の榑木である。 (詳細略)

 

―塩買木―

 

 役榑と年貢榑とは、幕府の上納木であるが、遠山にはこのほかに貨幣代用の榑木が

あった。これが塩買木である。

 

―渡入と川下げ―

 

榑木の運搬方法の一つは、人・馬の背によって行われた。「塩買木」もそうである。

いまひとつは、川に流して運搬する方法で、それにも筏や舟に積下す方法と、管流

といって榑木・材木をばらばらにして流し、川下に張った綱でせき止めて陸揚げする

方法があり、これが一番多かった。

しかし、天竜川の管流しは享保一〇年(
1725)以後、筏下しになった。

天竜川の渡場からの川下げ(川下しともいう)は、榑木を一時に何十万挺も流すた

め、川岸・川瀬に懸かり流れないものもあるので、遠州舟明までの両岸の村々から

人足を出し鳶口等ではずして流した。これを川狩といい、川沿いの村から義務的に

出ることを郷狩といった。

管流しされた榑木は、舟明で陸揚げされ榑山に積み重ねられる。

舟明では、山から「こっくわ」の蔓を取ってきて大綱にない、それに「網蔓」で浮

木をしっかり結びつける。

 これが「本綱」と呼ばれ、この本綱に竹を割って編んだ「よめづな」を幾筋もつ

けて、これを両岸の大木に縛りつける。

流れてきた榑木はこの「よめづな」にかかり榑山に揚げられる。

くだ流しは榑木をそのまま流すので簡単でよいが、沿岸の村々では川狩り人足など

大変であった。

 一方、筏で下せば、途中の村々の面倒は少なくなるが、榑木七〇〇挺を筏一双に

作る材木・藤ずる等の量が多く難儀であった。

 舟明まで運ばれた榑木は、千村代官所の役人が一々検査の上、長短・品等によっ

て分類区分けし勘定目録を作成、下流の掛塚港まで筏下しや船積みによって下した。

※注 徳川時代になり、国内統一とともに検地などが行われ、和田・木沢・八重河内・

上(門)村・満島・鶯巣を遠山六カ村とし、明治初年まで及んだ。

明治元年、満島・鶯巣は遠山村外となる。
                   
                                 史料は南信濃村誌 遠山」から抜粋

長野県下伊那郡泰阜村では、くれき踊りが江戸時代から伝承されており、無形民俗文化財に指定されています。
くわしくは、下記のホームページをご覧ください。 


 
泰阜村ホームページ   伝統芸能