お せ ん ぶ ち

 むかし、いや明治時代に、こんな話があったそうだ。
長野県の南信濃村という所の中根に、三人家族のまずしい一家があった。
そこに、おせんという五才の女の子がいて、学校へ行っておった。
その子はとても犬が好きで、一ぴきの大きな白い犬をかっておった。
おせんは犬が大好きで、学校から帰ると、暗くなるまで遊んでおった。

「わーい、わーい。」 
「ワン、ワン。」

 ある秋のころだった。
水はもう冷たくて氷りそうだった。
おせんがいつも通り学校へ出かけた。
………夕方になって、おせんが、学校から帰ってくるころだった。
いつもの通り犬が、おせんを迎えに行った。

そして少したってのことだった。
 おせんが、上村川と本谷川の合流地点(梨元)の橋から、かわらんべに川へひきずりこまれた。
迎えに行った犬がそれを見て助けようとした。
そのかわらんべは、川合部落から梨元に遊びにきておった。
そのかわらんべは川合部落の人を、たいそう困らせておった。
米や魚、野菜などをぬすんできて食べ、人をおこらせたりしておった。

「ヤイ、コノー、コノー、ヤイ、ヤイ。」
「こら、かわらんべ、なにしよるだ、おらの畑を。やめねえーか、まて、えーい。」
………そのかわらんべは、犬におわれた。

「ワンワンワン、助けろ………。」 
とうとう、木沢部落を通りこし川合部落の大きな自分の住んでいるふちまでやってきた。

そして犬とかわらんべとの戦いが始まった。
「ブ〜〜〜ワン……ワン。」 

「このやろう、あっち行け、あっち行け。」
かっぱは棒を持ってふり回す、犬は、かわらんべにかみつく。
かわらんべは、犬に左手をかまれた。

「ひえー ちくしょう。」
 
そして、左手から、赤い紫色のような血、かわらんべはほん気になっておこった。
棒をふり回した。
その棒の先が、大きな白の横腹に命中、犬は飛び上り、「ワンワン、クーン。」
 犬も血が出た。そして次の瞬間犬とかわらんべはいっしょに戦った。……………

かわらんべは死んだ。
犬は傷つきながら立っていた。

 まもなくおせんが、ちょうどこの大きなふちまで流されてきた。
そして犬は、へとへとになりながらおせんを水から上げた。
でも、もうおせんは死んでいた。
そして犬も横になって死んでしまった。

 そして、川合部落の大きなふちで、子供と犬が死んでいた事を、おせんの父、母が耳にした。
父、母はたいそうくやんだ。それから、おせんと犬のお墓を作ってやった。

一方、川合部落の人は、かわらんべがいなくなってよくなった。

 あれから何年か月日がたった。
あの事件があったふちは、今は「おせんぶち」と呼ばれている。
そして、
今はもう昔のように大きく深くなくて、半分ぐらいの大きさで、あさくなってしまい不気味になっている。
 そして夏になると、一〜二人の子供が、おそるおそるふちに来て泳いでいる。
これから「おせんぶち」………は、いったいどうなってしまうだろう。
 何年か先には、このふちはなくなるかもしれない。

 尾の島の八幡様