かみさまのたまご

 きざわのさとは、あきばかいどうの ちいさな しゅくばだった。

むかしは うまおいしゅうや たびびとで にぎわい やどやも

けっこう はんじょうしたそうな。 


うちが くのじのように ならんでおったので よその しゅうは、

きぎわ まんがりまちと、いっておった。 

 どのうちにも 大きな いろりがあって、やねには、大きな 

いしが
のせてあった。

 でっかい ほたをくべた いろりのはたで、おばあは、

ごろん ごろんといしうすをひき、おじいは まいばん わらじを 

つくっとった。

 どっちをみても 山ばっかで、たんぼや はたけのすくない 

この村は、山さくをして くらしておった。

やまさくというのは、山をやいて、そばやあわ、まめなどを つくることだ。 

 こめは いいだのまちから、うまおいしゅうがはこんできよった。

しろいめしは ぼんとしょうがつだけ くうもんと されとった。 

山のうえにある おやしろの もりに、うつくしい 二わの しろいとりが

すんでおった。 

村の としよりしゅうは

「あのとりゃ、かみさまの おつかいだ。おまえとう、わるさこくと ばちがあたるぞよ」
                  
と、いつもこどもたちに いいきかせておった。

 ところが 木のしにかけちゃ、村いちばんだと おもっているバンドリのタツは、

大杉の たかいえだにあるとのすをとって、村のしゅうをあっといわせたいと

おもった。

 ある日、なかまの 七人しゅうに、このことを はなした。
                    
七人しゅうも、おおのりきで


「タツあにい、かみさまのたまごをとってきたらよ、おらとうが さけをかうぞ」

と、おだてあげた。

バンドリのタツは、おやしろの大杉に
 するすると よじのぼった。

タツが すにちかづくと 二わの とりたちは 

けたたましい なきごえ
をあげた。

めすどりは すをまもり、おすどりは、はねを さかだてて、おそいかかった。

ろうばいしたタツは、こしのなたをひきぬくと、いきなり おすどりに一げ

きをくれた。

「ぎやぁー」

 と ひめいをあげ、まっかな ちが しろいはねに とびちった。

 つぎにタツは、すに しがみついている めすどりに、なたを ふりおろした。

ちにそまった 二わの とりの いない すには、ちにそまったたまごが十こも 
                    
ころがって いたっちゅうよ。


 そのばんのこと。


 バンドリのタツは、七人しゅうを あつめて、さかもりを ひらいた。

べにゃ、とりのたまごが ゆでられておった。

「こんなたまごは、めったそった くえんぞよ。かみさまの たまごだもんな……」

たまごをくっては さけをのみ、のんでは また くった。

 ふしぎなことに たまごは 八人しゅうが いくらくっても どんどんふえた。

一つくやぁ 二つ、二つくやぁ 四つと ふえていく。

みんなは、
くってくって くいまくった。

しまいには、たまごが あたりいっぱいにな
り、ごろごろ ころがりだした。

 はじめは よろこんで くっておった 八人しゅうも、これには さすがおどろいた。

くやぁくうほど ふえていく。

 まず きのよわい へッコシのトラが

「わあっ、ばけものたまごだっ」

と、めをまわしてしまった。

 あとのしゅうも びっくりこいて、うちに にげかえってしまった。

 ところが、かみさまの たたりは、そんなことじゃ すまなんだ。

 そのよる

「かじだっ!かじだっ!」

と、いうこえに すっとびおきた 村の人たちは、そらたかく もえあがった 

火ばしらにすっかり どぎもを ぬかれた。

 えんえんと そらを こがす 火ばしらは とつぜん 大きなおとをたてて、

おやしろのもりの ほうに たおれた。

すると、火のたまを くわえた 大ぎつねが、そらに まいあがった。

その 火のたまは、こあらし山の うえできえた。

 村は、まるやけとなり、たった一けんおてらさまが のこっただけだった。

あさになって 八人しゅうがおらんと いうので、おおさわぎになった。

村のしゅうが やっと みつけたのが 山を しばらくはいった うおどめ

のたきの しただったと。 

八人しゅうは、大いわのうえに、すわって、てをあわせて、わめくように

 トーボーカーミ、へービーターマエ ハーライターマユ キヨメテターマエ

 トウボーカーミー

と、くりかえし くりかえし おはらいを となえておった。

「しっかりするだ。おらとうが ついとるぞえ」

と、村のしゅうが、こえをかけたが、八人しゅうは まるで

 くるったよう
だったと。

 そのご、村のしゅうが、火のたまの きえたあたりに ちいさな 

おやし
ろをたてて、きつねを まつった。

 それが いまの こあらしさまよ。

 村のしゅうが、こまったことがあって、たのむと とりのたまごのように、

ものが 二ばいになって かえってきたと。

 それが ひょうばんになって よその しゅうまで、おおぜいの人が

おま
いりに くるようになったと。

 

 ばけもののたまごを食った八人しゅうも、かみさまのたたりを恐れて年に一回、

お宮に集まって「お日まち」(おまつり)をしました。

この人たちが亡くなったあとも、この家の人たちは、代々この行事を続けたそうです。

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