トップページへ
クワ・カブの部屋へ 

素 人 と マ ニ ア の 狭 間
〜長野県のクワガタ採集、飼育体験談〜



この趣味を開拓してきた初期マニア達の実力

「奴らは、6〜9月頃発生し、雑木林の樹液にやってくる。黒砂糖と焼酎を煮つめて作った人工樹液でおびき寄せてつかまえる。飼育は虫籠を使い、餌にはキュウリやトマトをあげる。」
 子供の頃、そんな昆虫図鑑の記述をあてに、採集や飼育を試みた人がたくさんいると思います。当然一夏限りのオモチャとして。

 市販の昆虫図鑑のレベルでは、誤認につながる言葉足らずな情報が多く、これらの虫の採集や飼育で他の子供を一歩リードしたいと思っていた昆虫少年達に挫折感を味あわせ続けてきたに違いない。
人間にとって益虫でも害虫でもなかった奴らについては、公的研究の価値が無かったわけで、有名な、ミヤマクワガタでさえ、その生態が詳しく知られるようになったのは、1980年代のことといわれる。しかし、さすがに人気のある虫達だけあって、個人的にはかなり詳しく研究をしてきたマニア界の有名人もいる。
 初期のマニアやそれの相手をしてきた業者の情報は量が多く、しかも深いものであった。私も、その情報に触れるたび、驚きの連続であったが、コンピューターのバージョンアップと同じくらいのスピードで情報、技術が進歩していったため、現在では、およそ昔みんなが抱いていたオオクワガタは超貴重品というイメージは消えてしまった。マニア達の興味は今後どこへ行ってしまうのかは私にはわからないが、そんなクワガタマニア達と、「成虫にエサをやったらまだ体が大きくなる」と思っている素人達との狭間を漂ってきた一輩として垣間見た、初期マニア達の開拓した段違いの情報量、異常ともいえる価値観等も交え、その実力の軌跡を紹介したいと思います。

「子供のオモチャ」の正体

 確かに一般人から見ると、奴らは子供のオモチャであり、また、自然の象徴であり、遠い昔のよき時代の郷愁物である。一般人の皆様の中には、「これらの虫は、できればお金を払って手に入れるのではなく、自分で採集する事が大切なのだ。」と子供達に宣う教育者や、逆に、郊外に家を建て、量販店にせっせと通い、これらの虫達の好んで住んでいた環境を間接的に破壊することを応援してきたくせに、「昆虫採集は現在残った貴重な自然の破壊だからやめろ」と声をあらげる似非ナチュラリストがいる。しかしマニアの目から見れば、どっちもどっちで、カブトムシとクワガタムシの区別もつかないド素人にすぎない。彼らは子供のオモチャであるクワガタムシに何万という値が付くことに、いつも異議を唱えたがるが、彼らよりもちょっと詳しい、元昆虫少年達なら、何万という値が付くものは特定の種類であり、当然コクワガタやカブトムシの稀少性と、子供がどんなにがんばってもとてもつかまえることはできないであろう野生のオオクワガタの稀少性がどれほど違うかはわかっているだろうし、たかが数ミリの違いで何でそんなに値段が違うのか?についても、実物での差を見れば、少しは理解できるかもしれない。私の場合、現在のマニア達にはレベル的にとうてい迎合できないが、「人並みに親となり、子供に見せてあげよう」をきっかけに、この趣味を再開してからは、ずいぶんとのめり込むと同時に、奴らに対する認識も、変わった。特に変わった認識は、奴らが、一概に自然の象徴物ではないという点であり、何万という値段が付くことに対して一般人達が持つ違和感も、薄らいだ点であろうか。
 確かに、私もかつては、奴らは自然豊かな山奥ほどたくさんいると信じていた。 しかし、自然豊か?な山奥(長野県では山間の急傾斜地ということになろうか?)には、大きくて立派な種類のものは生息数が少ないのである。生息数が多いのは、意外にも人間の生活に密着した場所であったのだ。
 奴らの餌場は、樹液の出ている木の幹である場合が多いのだが、ここは、繁殖行為のためにオスとメスが出会う貴重な場所ともなっている。様々な虫達が訪れるこの貴重な場所を、守らなければいけないオス達は、大型化をすすめ、戦闘能力を向上させてきたわけであるが、この大型化のためには、幼虫の間に充分な餌を得て、しかも日本の厳しい冬も乗り切らなければいけないわけで、この二つの課題を解決するため、カブトムシは人間が経済活動のため1次的、2次的に作り出した環境(堆肥場、ゴミ捨て場、オガコ捨て場、土場)を選び、ミヤマクワガタやノコギリクワガタは地下に潜って朽ち木の根食いの位置を占領し、日本への北上が他種に遅れたといわれるオオクワガタは、人間が作り出した台木という太いクヌギの株の朽ち木(地上部)を生育場所として選んだといわれる。
 よく、昔は自然が豊かでカブトムシもオオクワガタもたくさんいたとおっしゃる方がいるが、これは不適切な言い方であることは、もうおわかりだと思う。昔は農林業のスタイルが奴らの生存戦略と一致していたのでたくさんいた、というのが正解なのである。だから、カブトムシやクワガタムシの生息数の多い少ないを、「自然が残っている指標」に使う行為は、自然という言葉の定義に左右さるものの、あまり適当とは思えない。もっとも、農林業が適度に営まれ、カブトムシがたくさん住めるような環境になっている状態を指して自然豊かと言うのであれば、全然構わないし、私も個人的には、それこそが日本という国にあっての、まさに自然だと思っている。
大型化をあきらめ、小型でもいいので数で勝負しようとしたものもいる。体が小さい分、小規模の朽ち木があれば発生でき、成虫の餌も少なくてよいコクワガタは、現在日本のクワガタの中では、最も繁栄している種ではないかと思われる。 台湾等に生息しているシェンクリングオオクワガタは、大きさをのぞいて日本のコクワガタによく似ているが、共通の祖先から、大型になる系統を捨てて北上を果たしたものが日本のコクワガタになったのではと想像したくなる。一方、繁殖の場を守るため大型化し、喧嘩が強くなった種は、やはり子供達にも人気があるが、特に喧嘩が強いと言われる種は、どれも活動期の寿命は一夏程度である。 奴らは性フェロモンが遠くまで届かず、オスとメスの巡り会いを樹液の訪問に頼っているのだが、樹液は自然界でそうそうあるわけではないし、またそうそう沢山あっては、オスとメスの巡り会いがままならなくなってしまう。わざわざ競争の激しい貴重な場を繁殖場に選び、短い命の間にメスと巡り会うチャンスを少しでも増やそうと、この場を死守すべく戦闘能力が特に向上してきたのではないだろうか。
喧嘩の強い種類の中でも、最強と言えるのがカブトムシである。この虫の発生が多い7月末〜8月上旬は、ノコギリクワガタやミヤマクワガタ等の大型のクワガタ達にとっては受難の時期であり、この時期に発生してみても繁殖の場を占有できない可能性が高いため、カブトムシの生息数の多い地域では、発生の時期を前後にずらしたり、カブトムシとの競合を覚悟して、その時期に特大のオスが発生するように生態を変えているともいわれている。(ここで言う発生とは、蛹室から脱出する時期のことを言うのだが、実は両種ともほとんどの個体は、前年夏〜秋のうちに蛹室内で羽化をしている。)
 コクワガタ、オオクワガタ、ヒラタクワガタ等は成虫で野外活動後も越冬して生き続ける事が多く、繁殖チャンスが多いせいなのかノコギリやミヤマよりは喧嘩好きではない(無理をしない)ようだ。長生きするうちには、繁殖のチャンスが多くあるので争う必要が少ないということなのか?。しかしながら、大型のオオクワガタやヒラタクワガタが本気を出したときの強さはとんでもないことも事実である。オオクワガタの産地では、樹洞等の近くにノコギリクワガタ等の他のクワガタの傷ついた死体があった場合、その樹洞に大型のオオクワガタのオスがいる可能性があるという。また、ヒラタクワガタを飼育していて経験したことであるが、一つの飼育容器に75mmと62mmのツシマヒラタクワガタ、ノコギリクワガタ50mmを入れておいたところ、翌朝75mmのツシマヒラタクワガタが悠然と歩く脇で、2匹のクワガタのオスは体をバラバラにされてしまっていた。

入手方法

入手の方法は、どなたにとっても最も興味のあった点だと思うが、採集、購入、譲受、繁殖という方法があるうち、採集と購入についてを見ていきたい。
 長野県内での天然個体の捕獲の難易を、容易なものから順に並べると、コクワガタ、ノコギリクワガタ、スジクワガタ、カブトムシ、ミヤマクワガタ、アカアシクワガタの順になっていると思う。オオクワガタとヒラタクワガタは今から30年以上前は間違いなく生息していたことを大町市で確認しているが、情報が少ないせいか、長野県内にオオクワガタやヒラタクワガタの大産地があるという話はあまり聞いたことがない。ただ、木曽にはオオクワガタがいるという情報や、松本や下伊那で数年前に捕まえたという情報、須坂には昔いたという情報も聞くし、岐阜にはいるので、木曽や下伊那にいても何ら不思議ではないし、根羽村にはヒラタはいるようだ。実際にたくさんつかまえている人もいるのかもしれない。
 この他にも色々な種類が県内に生息しているが、大きさや飼い安さ、つまりは人気の点から見ると、カブトムシ、ノコギリクワガタ、ミヤマクワガタ、オオクワガタ、ヒラタクワガタが主役であろう。県内には他にもヒメオオクワガタが生息しているが、高標高地のブナ林地帯にいるといわれる本種は、残念ながら、個人的に捕獲、観察の経験が無い。
 県内で前述の5種類のうち比較的採集が簡単なカブトムシ・ノコギリクワガタ・ミヤマクワガタの3種類について見た場合、まずは、人間の手が入っている里山地帯をさがすのがなんといっても一番である。具体的にいうと薪炭林と呼ばれるクヌギ、コナラ等の広葉樹林、雑木林である。できれば、平坦地か南向きの緩い斜面で、水田や池や川が近くにあり、湿った空気の流れることが必要である。地面が完全に乾いてしまう尾根のような場所でなく、かといって湿地のようなところでなく、冬は林床に日が射し込むような開けた場所がよい。多くの方はクヌギやコナラという樹種を目安にさがされることと思いますが、探す順番はまず前述の地勢を目安とするほうが良いかもしれない。前述のような場所が見つかると5月から9月にかけての成虫採集と11月ころから4月にかけての幼虫採集ができる。これらの林のうち、人の手によって定期的に枝葉を伐採して株仕立てにされているものが、台場クヌギと呼ばれる巨大なクヌギである。これは特にオオクワガタの好む樹だが、長野県内でもかつてはこういったクヌギの仕立法も有ったということだが、現在ではほとんど見られない。このこともつまり、長野県内でオオクワガタを捕まえることがかなり難しいことを意味し、私も含め素人が県内でオオクワガタを捕まえようとすることは、時間の浪費を意味する。
 薪炭林の他に有望なのが河川敷ないし河川近くに広がる柄場、空き地等に生える柳である。特に広葉樹の林に隣接している日当たりのよい空き地等にぽつんと1本だけ生えている、若くて樹高が低い葉の密生した柳の木があれば、しめたものである。この柳には、5月から9月頃(特に7月)にノコギリクワガタを主体にコクワガタ、カブトムシの成虫が昼夜を問わず集まるので大変に効率よい採集ができる。その他にも、森林近くを走る道路の脇に設置された水銀灯での5月から9月にかけての夜間飛来成虫の採集も採集法としてはポピュラーであるが、各種成虫の発生時期の熟知が必要であり、その夜の天候によっても左右され、効率的とは言い難い。ただし、急傾斜地等では、ミヤマクワガタの灯火採集は他の採集法に比べて有効である。
里山での成虫採集方法であるが、林の木が密生気味で中まで日がよく当たらない場合は特にそうであるが、とにかく林縁の日当たりのよい場所の木、林から一本だけ離れて立っているような木を見て回る。これらの虫は樹液に集まるので、林内より林縁や一本だけ離れて立っている木の方が樹液が出ている場合が多いのでこういった木に集まってくる。直接木肌を見て回るほかに、樹液の甘酸っぱい臭いを鼻で感じたり、蝶や蜂、カナブンが飛び回っていないかどうかを観察する。
林縁にある木であれば、樹液が出ていなくても、蹴飛ばしてみると落ちてくることも多い。
里山での成虫採集は、以外と早い時期からミヤマクワガタの成虫等の野外活動が見られることから、5月末頃からであれば結構成果が得られる。ノコギリクワガタは個体数が多いことから6月末から8月中旬頃までの長期間大量採集が可能である。
しかし、里山のクヌギ、コナラについては、世間一般に有名な採集樹になっており、採集のライバルも多いことからむしろ採集しにくい樹種となっているかもしれない。それに比べ河川敷にある柳については、ここ数年の間に、趣味家の間で有名になってきているものの、まだまだ採集地開発は可能だと思われるので前述のような場所をぜひ発見して採集に挑戦して欲しい。

マニアの間では幼虫での採集が盛んに行われていた。カブトムシについては、オガコ、ホダ木捨て場等で秋又は春に大量に発見できる。しかし、エノキダケの廃オガコ捨て場は時として巨大であるため、探しきれない人もいるだろう。そういったときのポイントであるが、まず、放置後1年以上たっている場所を探す。また真冬の時に日溜まりになって暖かくなるような場所、アスファルトに面していて熱が伝わる様な場所を探す。(凍りつくような場所は希望薄)そのような場所を少し掘ってみてミミズがいたらさらに掘ってみる価値がある。そして兎の糞のようなコロコロしたものが出てきたらカブトムシの幼虫発見は間近である。たまに、きのこの栽培に使う前のオガコを積んであるところを掘って探している人もいるが、こういったところにはカブトムシの幼虫はいないのでやめてください。 クワガタムシについては種類によってかなり生息場所に違いがある。コクワガタ、オオクワガタ、アカアシクワガタについては、成虫採集の際ふれたような場所にある、広葉樹の立ち枯れや切り株の朽ち木(地上部)をナタ等で破壊することによって比較的簡単に採集できる。ここでいう朽ち木であるが、何らかの理由で、一部又は全部が死んだ木に、カワラタケやニクウスバタケ等のきのこが侵入し、木質部が柔らかくなっているもので、ある程度水分も含んでいるものがターゲットとなる。オオクワガタはかなり堅い朽ち木にも食い入っているようである。地上部に出ていて、日に当たって完全に乾燥している様な朽ち木には、クワガタムシの幼虫はあまりいないと考えてよい。また、色々な虫が巣くって迷路になっているような枯れ木にもクワガタの幼虫はいないと思ってよい。これもある程度経験を積んでこないとわからないと思う。コクワガタについてはよく腐朽していれば針葉樹にも巣くっているし、野外のクワガタムシの幼虫採集で得られるもののほとんどはコクワガタであり、朽ち木割では越冬中の新成虫も得られることが多い。幼虫の採集後の管理は幼虫飼育法を参照されたい。
次に購入による入手であるが、オオクワガタを主商品として全国各地に通販業者が山ほどいるのでプライスリストを取り寄せ比較検討して購入すれば良い。
リスト入手情報としては、緑書房「フィッシュマガジン」、虫社「月刊むし」等の広告を見ていただきたい。
ちなみに個人で利用した業者を載せる。
奈良オオクワセンター、 ザ・オオクワ岐阜店、 フジコン、
 クワガタ流通センター、 緑研クワガタ事業部、 ニッコウ
これらの業者のうちには、外国産のクワガタやカブトムシの生体を扱っているものもいる。つい最近まで、外国産のクワガタムシ、カブトムシ(国内にいない昆虫で、有用植物に害を与えるもの)を生きたまま日本国内に持ち込むことは、法律(植物防疫法第5条の2)で禁止されていた。現実的には密輸が公然と行われていたが、1999年11月24日に外国産の大型カブトムシ、クワガタムシのほとんど(40数種)が有害動物の指定からはずれ、輸入が解禁になったため、大手を振って飼えるようになっている。マニアのあまりに執拗な抗議が、農林水産省に植物防疫法(施行令か何かか)の改正をさせたのではなかろうか。最もこれは、当然の話ではあると思う。少なくともドルクス属の外国産クワガタに国内の農作物に対する害虫性が有るわけがないことは、この昆虫とつきあったことが有る人間なら誰でも知っている事実である。この虫達の害虫性とはいったい何の農作物に対するものなのか。たぶん植物防疫サイドでは想定すらできていなかったのではないだろうか。オガクズが農作物だというなら話は別だが。クワガタやカブトムシの仲間で害虫性が明らかになっているのは、いづれもドルクス属ではない南米のクビボソクワガタ(対アボカド)とオキナワカブト(タイワンカブト、サイカブトともいう)(対サトウキビ)くらいだし、たしかに小型種についての害虫性は未知ではあるが、少なくともマニア達が興味を持つ大型の種は、人間が用意した、エサが潤沢な快適な温湿度環境下でこそ生きていけるのであって、日本の自然環境下にあって、その巨体を支える膨大な腐植質のエサ場を自分で見つけ、日本の極寒の冬を乗り切った上で農作物に被害を与えるような大発生に至ることはとうてい不可能である。なぜなら、彼らの祖先が北上を試みて日本の寒さやエサ不足の環境下で大型の系統が淘汰され、生き残ったのが、現在日本に細々生息している仲間であるからである。元々が同じ種類の昆虫なのである。つまり、北上を果たせない、寒さに弱い南方の大型の系統を日本に持ち込んでも、野外で大発生できる訳がないのである。それこそ、農作物に被害を及ぼすような大発生が心配される害虫1匹に、マニアが何万円も出すわけがない。結局のところ、この虫に限らず、「一般的に植物食性の昆虫については全て移入制限をする。」ということだったのかもしれない。
 病気保有説で外国産排除を唱えている学者もいるようだが、個人的に裏付け有る反論はできないものの、その学者が、ことその分野においては、マニアの足下にも及んでいない事だけはわかる。
 いづれにしろ、外国産については、既に自由に取り引きされる時代となり、外国産クワガタの害虫性、病気保有説を云々言うよりも遥かに大きな問題が出てきている。それは在来種との混血問題、温帯域産の種の競合問題である。国産在来種の多くが、元々外国産種と祖先を同じくしているため、いわば亜種の関係にあり、交配も可能である。逃亡個体や飼育者の飼育放棄(放虫)のため、本来の純系の生息域が犯される可能性が非情に高まっており、現実に本州(野外)で南西諸島産の個体と思われるものもやさらに熱帯由来の種も採集されるようになっている。この問題については、地区毎の純系の厳守が良いことで、雑種(たとえばグランディスオオクワガタと台湾オオクワガタの雑種)を作り出すことは悪徳であるという独自の価値観を持つマニア達にこそ考えてもらいたい。外国産個体に限らず、本来の分布地域に居ない種(亜種)を、故意である無しに関わらず、野外に出してしまうことは、少なくとも繁殖可能な腕をもち、マニア自称を許される輩達は、マニアのメンツにかけて防いでいかなくてはいけないはずである。外国産が余ったから近所の子供に配るなどという行為も考えなくてはいけない。
 輸入自由化の影響の可能性で一つ言えることは、外国産クワガタ、カブトムシが、かつての熱帯魚のような感覚でマニアに浸透していくかもしれないことである。今は、国内のマニアが養殖を楽しんでいるが、近い将来には、今のアロワナやグッピーのように東南アジア等に養殖基地ができ良型の個体が輸出されるというシステムに変わってくるかもしれない。それこそ、品種育成も行われたりしたら何か違うような気もするのだが。

成虫の飼育法

かつて、これらの虫達は、虫籠なるもので飼育され、虫籠なるゆえに短命で死なせてしまっていたのではないかと思う。虫の生態が知られているようで知られていなかったが故のことであろう。現在は、夏場にホームセンター等で特設のコーナーもでき、生体はもちろん飼育資材もたくさんの種類が販売されており、ここで売られている網フタ付きのプラスティック水槽による飼育が定着したため、半月〜2ヶ月くらいは生かせるようになった。もっとも、水槽を使って飼育する方法は30年ほど前から行われていたし、飼育床にオガコを使うことも常識ではあった。しかしながら、オガコも樹種を選定し、飼育専門資材として販売されるようになったのは、ここ10年くらいではなかろうか。中には、今でも怪しげな資材も多くあるが、虫籠飼育にくらべれば、かなりの改善と言えるだろう。
餌もスイカの皮がよく使われてきたが、水分が多すぎ不向きである。また黒砂糖も昔からよく使われてきたが、黒砂糖の分子形態は大きすぎるため、虫にとって消化吸収がしにくく、与えてもあまり意味がないとも言われている。(グルコースやガラクトースでなくてはいけないと言われている。)また、最近よく売っている虫専用ゼリーだけでは、栄養不足であり、バナナを補足的に与えるのがよいといわれている。スイカを一生懸命与えていた人の目から見ると、バナナは水分が少なすぎるように見えると思うが、水分も適度である上、メロンやスイカに比べ安価で、一年中どこでも簡単に手に入り、一本単位で使え、他の果物よりも嵩も少なく、皮ごと輪切りにして与えられるので、扱いが簡単便利なうえ、虫にとっての栄養も理想的といわれている。ただし、成虫をただ飼っておくだけで、卵や幼虫を採りたいという考えがなければ、ゼリーを与えるだけでも別に構わない。しかし、卵や幼虫を採りたいと考えるのなら、やはりバナナを与えるのが基本である。加えてクワガタのマニア達は、バナナの他にも特にメスの生理(交尾期→産卵期)に合わせた特殊な餌も与えている。ヒヨコには卵の黄身を与えると良いといわれるように、これらの虫達(抱卵しているメス)には、卵の基材となる蛋白質として、同じ虫の蛋白質の宝庫である蛹(カブトムシ)が与えられているのである。一般の方達では、とうてい考えつかないであろうこの餌を与えられたメスは、果物やゼリーなど見向きもせず、一心不乱に蛹に食らいつくのである。蛹を食ったメスの産卵数は飛躍的に伸びる上、一つ一つの卵も大きくなり、生まれてくる幼虫も確実に大きくなるそうである。そんなこと、かわいそうで、とてもできないと言うあなたは至極正常である。
 格闘技ファンにこの虫のファンも多いと聞くが、これは当たり前のことである。
 この虫達の人気の最大の理由は、戦いのおもしろさである。この虫の飼育は夏場に成虫採集してきて死ぬまでゴチャゴチャと小さい容器に入れておくという方がほとんどだとおもうが、卵や幼虫を取るための繁殖飼育法となると前述のように全く世界が違ってくる。
 戦う姿を見ることだけが目的である場合には、のぼり木を飼育容器の中に入れて糖蜜をエサに戦わせることを良くやられたと思うが、体の大きな種類は、力が強く、のぼり木ごとひっくり返えしてしまうことが多かったと思う。そこで考えたのが、板を使った土俵作りである(図1参照)。足の部分をマットに埋め込んでしまえば、ひっくり返らず、しかもマットの上のような不安定な場所ではないので、本来の姿に近い形での戦い方を観察できる。餌はフジコン社製やペティオのペイントゼリーがよい。また、かなり良くなってきたと前述した市販の飼育容器・資材等ではあるが、繁殖飼育用の資材なのか、成虫観察用の資材なのか、中途半端な場合が多く、これを購入している一般の方々の飼育法も、あわよくば繁殖をさせたいという程度の場合が多いのではないかと思う。しかしながら、繁殖飼育目的の装置は、成虫観察を目的とした飼育装置とはかなり趣の違う物なので、中途半端な装置では、繁殖はままならないことは宣言しておく。最近オオクワガタ飼育を目的としたセット物の飼育装置も販売されるようになってきたので参考にはなるであろう。

クワガタの繁殖方法(オオクワガタの飼育法を主体に説明しています。)

(資材)
・網フタ付プラスティック水槽(できるだけ大きいもの、40×30×20cm前後)
(ペアリングと採卵を別の水槽で行う場合は、比較的小さな水槽でも可。)
・産卵木4〜5本(乾燥したシイタケのホダ木、直径8〜15cm、長さ10〜15cm位)
(大きな成虫を育てたい場合は、最高の品質のクヌギに限るとはマニア達のもっ ぱらの弁である。)
(※小ケースを使用する、ペアリングー採卵 分離方式の場合のメリット)
 大きなケースの場合、産卵木は3〜6本ほど入るわけであるが、このうち産卵されているものは、多くても2〜3本であり、幼虫回収の際に、全く幼虫の食い入っていない木の破片が沢山出ることになってしまい、大変にもったいない。
 ペアリングと採卵を分ける飼育方法の場合は、採卵用小ケースに、柔らかめのクヌギの朽ち木を1本だけ入れるので、多少産卵木の単価が高くても、無駄なく使え、手間はかかるものの結果的には安上がりになるといえる。
・オガコ(シイタケの古ホダ木を砕いたもの、針葉樹が混入していないもの)
・バナナ(又は、市販の虫ゼリーとヨーグルトを1:1で混合した物)・新聞紙
・カブトムシやクワガタムシ不要種の幼虫、前蛹、蛹
(繁殖飼育装置のセット方法)
・産卵木の樹皮をナタ等で2/3程はぎ取る。
・その産卵木を2日ほど水に浸けて、充分に水を染み込ませる。
・水槽の底にオガコを4〜5cmの厚さになるように入れる。
・オガコの上に水を染み込ませた産卵木を縦にして入れる。
・産卵木の上からオガコを加え、縦にした産卵木の2/3位まで埋めてしまう。この際、オガコの厚さは10cm以上(できれば15cm以上)あったほうがよい。オガコには霧吹きで水分を与えるが、オガコを軽く握ってみて固まる程度の水分がよく、ベシャベシャにならないように注意する。(オオクワガタ以外のクワガタについては、産卵木の代わりに産卵木の破片をマットに埋め込んでおくだけでも、マットのみでもよい。)
・直射日光の絶対に当たらない、風通しの良い涼しい場所に置く。(スーパーマニアはオオクワガタを風で飼うという。)
・成虫のオス1匹とメス1匹を入れ、餌には皮が付いたまま2〜3cmの長さに輪切りにしたバナナを与える。オオクワガタの場合、バナナ、蛹等を与えずに市販の虫ゼリーや黒糖蜜のみを与えていると、卵の形成に必要な素材である蛋白質の不足をきたし、メスがオスを補食する事故が発生する危険性がある。(オオクワガタ以外のクワガタの場合は、♂1匹に♀1〜3匹でよい。)
・プラスティック水槽は、フタの網目からショウジョウバエが侵入するし、バナナの発酵臭も気になる。これを防ぐには、水槽とフタの間に新聞紙を一枚挟んでおくと良い。新聞紙は乾燥も適度に調整してくれるし、虫の呼吸にも支障ない。
・繁殖飼育中には餌の交換やフタの掃除は行っても差し支えないが、オガコを掘り返したり、産卵木を取り出したりしてはいけない。
・容器内のダニの発生が著しい場合は、消毒用アルコールを蓋、容器の上部壁面、オガコの表面に霧吹きを用いて散布する。(火気注意)
・交尾観察後、1〜2週間後にオスを他の容器に移して、メスを産卵行動に専念させる。(メスを一つの容器に1匹だけにしてやることが重要。)
・繁殖飼育開始から2ヶ月ほどして産卵木にボコボコに穴を開けているようであればメスも他の容器に移す。(子殺し防止のため)ノコギリクワガタやヒラタクワガタは外から卵や幼虫が見える場合が多いが、産卵木の中に卵を産むオオクワガタの場合は、幼虫が産卵木の中で大きくなるため、水槽の外からなかなか確認ができない。確認のためには、産卵木を掘り出して、ドライバー等で削ってみて、幼虫の食痕が見つかれば採卵成功であるが、幼虫が産卵木を食い尽くしてオガコの中に這い出し、水槽の底から見えるようになるまで待った方が無難である。(こうしないと、産卵木の破片が大量に出てもったいないし、処理にも困る。だからマニアは、産卵木に1令幼虫が食べ尽くしてしかも大きくなるように最高級のクヌギ材を使う。)
カブトムシにしろ、クワガタにしろ、繁殖飼育したもの同士を次代の親に使っていく場合、だんだん血が濃くなって来ると、羽化する成虫が小型化してくるようなので、野外採集なり、購入なりで親虫を補充して、外部の血を入れていくことをおすすめする。また、マニア達が最も興味を持っているのが、大きな個体を作り出す(育てる)ことであるが、この大きくな個体を育てるために大きな親虫を使っている。虫にも間違いなく血統があるのである。私も、体色の赤いカブトムシを両親にして子供をとったところ、うまれてきた子供がほとんど赤い色になった。
(マニアのスーパーテクニック)
産卵しないオオクワガタのメスをその気にさせる一手法に、産卵木への味の素5%水溶液の散布法があるとのこと。きのこの腐朽作用によって木質内にアミノ酸が生成されてきた木が、クワガタのメスを産卵に誘う作用があり、この条件を人工的に作り出してやるということらしい。
(オオクワガタの ペアリングと採卵を分ける方法)
飼育の概要は、大きな差はないが、ペア数が多い場合は、飼育スペースを節約する考えから、ペアリングと採卵を分離して行い、小ケースを使った飼育とする。
・ペアリングは小ケースで行い、マットを5〜6cmの厚さに敷く。皿木を入れた場合は、マットがもっと少なくても良いかもしれない。オス1とメス1を入れ、ゼリーを2日に1回与える。マットには充分水分を与え、乾燥しないように注意する。
・ペアリング開始から1〜2週間観察し、交尾が確認できたら餌をバナナに切り替える。(2日に1度)餌は、ヨーグルトや高蛋白ゼリーや蛹でも良いと思われる。
・交尾確認後2週間経過したら、メスのみを採卵ケースに移す。採卵ケースには、水分を染み込ませた最高品質のクヌギの産卵木(直径10cm、長さ15cm1本)を入れ、埋込マットで半分ほど埋め込んでおく。餌は引き続き、バナナを与える。
・約1ヶ月して産卵木に穴を開けているようであれば、メスを産卵用ケースから取り出す。
・採卵ケースには穴あきラップを施し、乾燥に注意しながら、さらに半月〜1ヶ月してから産卵木を取り出す。

幼虫回収法

奴らの幼虫は1令、2令、3令があり、その後、前蛹、蛹、成虫となります。
 水槽の底に幼虫が見えたら、産卵木の外に出てきている幼虫をつぶさないように注意しながら産卵木を取り出します。これをドライバー等で掘り崩しながら幼虫を取り出しますが、幼虫が居る木は内部に穴が空いているので比較的簡単に崩れます。取り出した幼虫はできる限りさわらないようにし、オガコを入れた仮容器(フィルムケース等)に1匹づつ入れておきます。2匹一緒にすると噛み合って死んでしまいます。その後はできるだけ早く幼虫飼育へ移行します。

幼虫飼育法

 マニアの間での幼虫飼育技術(増殖技術)に関する試みは結構行われてきています。マニアやペット養殖業者の間で、ほぼ確立されたと言われているのがマット飼育法、菌床飼育法、材飼育法の3つの幼虫飼育技術ですが、マット飼育法が、経済的で、蛹化・羽化の観察もできますので、初めて飼育する方は、一番取り組みやすいのではないかと思います。
(マット飼育法)
・マットとは、早い話がオガコのことですが、樹種で言うとクヌギ、エノキ、ブナのオガコが一番良く、これにコナラ、サクラ、柳等の広葉樹が次ぐようです。一般的には椎茸のホダ木の古くなった物(クヌギ、コナラがほとんど)を細かく粉砕した物が使われます。ホームセンター等で売っている昆虫用マットのうち、茶色の濃いものは、エノキダケのビン栽培培地の古くなった物を発酵させた物なので、針葉樹の杉が入っているため、クワガタムシの幼虫飼育には使いません。白っぽい昆虫マットで、原料樹種(クヌギ、コナラ)が明記してあるマットを使います。
・買ってきたマットをそのまま幼虫飼育に使う場合もありますが、マニアは、このマットに栄養添加処理をして、より大型の幼虫に育つようにしています。
ホダ木は、きのこ(椎茸)の腐朽作用により、幼虫が食することが出来るように柔らかくなっているかわりに、きのこを発生させるために栄養が使われて幼虫の成長に使われる栄養分が少なくなってしまっているためです。
・栄養添加マットの作成には、もっぱら半透明の衣装ケースが使われています。 最初に、衣装ケースの中に市販の昆虫マットを入れます。次に市販の昆虫マットに対し、体積ベースで5%〜15%の小麦粉(なれるまでは薄力粉、ベテランになるに従って中力粉、強力粉を使っているようです。グルテンが虫の成長に威力を発揮するようです。)やキナコを加えて良く攪拌し、重量ベース40%〜50%の水を加え均一に攪拌します。{この際、うまく発酵するようにホームセンターで売っている生ゴミ処理用の発酵促進剤(もちろん蛆発生防止のための殺虫剤をつかっていないもの)を一緒に入れる説もあるが、私もこれを実践したところ、幼虫や蛹、羽化直後の成虫が強力な糸状菌に巻かれて死亡するものが多発したので、発酵促進剤は入れない方が無難かもしれない。また最近、特にアメリカ産の穀物類には遺伝子組み替え作物が多く含まれるようになってきており、BT毒素(鱗翅目に特異的に効く毒素でほ乳類には無害といわれる)産出能力のある作物も生産されている。トウモロコシでは既に大量に作付けされこのトウモロコシの花粉の飛散でカバマダラチョウ?が死んだという報告が波紋を呼んでいるところであるが、マットへの添加剤として使われる穀物にこれらの遺伝子組み替え植物由来のものが含まれていた場合、幼虫への影響が有るのかどうなのか興味は尽きないところである。トウモロコシの真の部分もコーンブラン、コーンコブとなって、きのこの栽培地に使われており、幼虫の栄養としてどうかと期待されていた素材であったが、遺伝子組み替えトウモロコシが混入されている可能性は高く、実質あきらめたほうがよいのかもしれない。}
 マットを上から軽く押し固め、衣装ケースにフタをして、日向に2週間ほど出しておきますが、この間に1回以上攪拌し、その都度押し固めます。マットが発酵して茶色〜焦げ茶色になってきますので、さらに発酵熱が下がるまで置いた後、新聞紙等に拡げて半日ほど乾かします。
・発酵熱が完全におさまったら、コーヒーの空き瓶や900ccガラスビン等に8分目まですりこぎ等を使ってきつく詰め込み、幼虫を1匹だけこの上に置き、さらにこの上に軽くマットを入れ、埋めてやります。フタは密閉されるタイプの場合は、1〜2箇所3mm程度の穴をあけて空気の流通を確保してやりますが、コーヒーの空き瓶等では、フタの内側にある密閉用のシートを取り除いてやるだけで充分です。ビンは比較的涼しい静かなところに置いておき、3ヶ月を目安にマットを交換してやります。
(材飼育法)
 椎茸ホダ木(コナラとクヌギが多いがクヌギがよいといわれる)やカワラタケのはえたエノキ材に1〜2令初期の幼虫を埋め込んで飼育する方法です。
・乾燥されたホダ木は1〜2日ほど水に浸けておきます。このホダ木がすっぽり入る容器を用意しオガコでこのホダ木を完全に埋め込んでしまいます。
・産卵木から取り出した幼虫1匹をこの上におき、容器とフタの間に2箇所ほど穴をあけたラップをし乾燥を防ぎます。
・日の当たらない静かなところに置き1年後あるいは2年後の9月頃取り出すと成虫になっています。

 菌糸ビン飼育については、未経験のため記述はできませんが、温度調節のできる場所があって、菌糸ビンを業者から安定的に購入できるのであれば、管理も比較的簡単で、1年足らずで超大型の個体が作出できる究極の飼育法であると、マニアの間ではもっぱらの評判です。現在マニアの80%以上がこの方法を行っていると言われています。
クワガタを飼うのに、味の素やら小麦粉やらキナコやら遺伝子組み替え作物の影響やらきのこを使うとは、ずいぶんとあなたの虫に対するイメージも変わってきたのではないでしょうか。

参考書籍

 図鑑のたぐいは特別可もなく不可もなくの物がほとんどであり、マニアのレベ
ルには、ほど遠いと思ってほしい。また、一般書店でもこれらの虫や飼育に関する詳しい書籍が売られはじめているが、結構高価なカラー写真主体のものでも、まだまだだなというものもあれば、平成10年になって、千円程度でも濃密な内容で何も言うことはございませんというものが出てきた。すばらしい物の代表が、「成美堂 オオクワガタ飼育大作戦」という本で、お手ごろ価格、簡潔明瞭な構成、興味あるマニア体験談等、申し分ございません。その反対に、あまりわかってないなーというのが「誠文堂 ザ・クワガタムシ、カブトムシ」というアクアリウム関係シリーズの一冊になっている本である。ここにはアクアリストの受けねらいなのか、クワガタ飼育容器内に野生動物の人形を配置したレイアウト頁が載っているが、クワガタマニアの嘲笑が聞こえてくるようだ。

種類別のおおざっぱな特徴

 今まで繁殖飼育したクワガタには、県内にも沢山いて野外採集成虫を使ったコクワガタ、ノコギリクワガタ、ミヤマクワガタが、また、幼虫を県内外で野外採集してきて羽化まで飼育したものにアカアシクワガタ、オオクワガタ、スジクワガタがいます。その他、業者から親虫を購入して飼育したものも含めて、各種類の特徴や飼育しての感想は以下のとおりです。

サキシマヒラタクワガタ:石垣島産。クワガタムシでは国内最大種の一つ。オオアゴの力がものすごく強いので指等を挟まれないように十分注意されたい。夜行性が強く、夜でも点灯すると隠れる。寒さにやや弱いので、蛹の時期が真冬にかかった場合は保温が必要になる。成虫になった年(新成虫)は♀は卵を産まない場合が多い。(越冬して翌年から卵を産むようになる。)成虫で2〜3年生きる。元々本州には生息していないヒラタクワガタ(亜種)であるので、野外へ逃がさないよう注意が必要。

ツシマヒラタクワガタ:対馬産。国内最長種の一つ。オオアゴの力が強いので注意。昼間でも活動が見られる。活動シーズンが長い(春〜初冬)。成虫で2〜3年生きる。新成虫でも卵をバンバン産む。元々本州には生息していないヒラタクワガタ(亜種)であるので、野外へ逃がさないよう要注意。

オオクワガタ:現在、野外採集がもっとも困難なクワガタムシの一つである。ほぼ完全な夜行性で、昼間はほとんど活動しない。非常に臆病。人の気配に敏感で、点灯やわずかな物音でもすぐに隠れる。寒さには強いが、やや暖かい場所を好む。新成虫は卵を産まない場合が多い。成虫で3年以上生きる。長野県内の自然個体は、数がかなり少ないと思われる。

ヤマトサビクワガタ:徳之島産。地上歩行性。大変におとなしい。2年以上生きる。よく湿らせた朽木を水槽に入れ、オガコで完全に埋め込んだもので、バナナを与えて飼育すると、いつの間にか幼虫が水槽の底に姿を見せる。元々本州には生息していないクワガタであるので、野外へ逃がさないよう要注意。

今まで繁殖を試みたクワガタのうち、最も繁殖飼育が難しそうなものが、ミヤマクワガタであった。この種は採卵は比較的簡単であったものの、幼虫1匹づつの分離飼育をしたところ全滅であった。しかし、幼虫を1匹づつの飼育とせず、10匹程度を小さな衣装ケースで集団飼育したところ、羽化率で8割を超えた。 また、マニアの情報では、長い間、幻のクワガタと言われてきたヒメオオクワガタも、生息地が高標高の冷涼地帯ということもあってか飼育難度Aとのことである。

野生(ワイルド)ものと選抜系統について

 農作物には、品種というものがあるが、野生の生き物にそんなものはないだろうと普通は考える。しかし、野生の生き物の代表のような昆虫の中にさえ、完全に家畜化された蚕等では明確な品種があり、しかも雑種強勢技術が駆使された4元交雑が主流だ。野生生物の中にも、地域変異というものがあり、これは品種と呼べなくはないが、人間の手によって飼育を管理していくことによって、より系統分離、品種育成は進む。ある意味では魅力ではあるが、これが進みすぎるとウチョウランのように高嶺の花の魅力が半減し、大安売りの花に変貌してしまうこともある。程々が良いのかもしれないが、昆虫の一種であるオオクワガタの世界では、今、大きなオスの作出が何よりも求められており、80mm個体では1,000万円の値も付くとなると、こういった育種技術の応用を試みようという人間が現れても、何ら不思議ではなくなってくる。
 まず産地毎に大型になる系統の選抜を行う。そして、これらの選抜系統のうち、出来るだけ産地の離れたもの同志を掛け合わせ、雑種強勢現象を利用して大型個体を生み出す方法も、知ってか知らずか行われている。 
私も、カブトムシを使って、赤色系統の分離を行ったところ、ほぼ100%分離できた。となるとその後の技術も利用できそうである。
 それがマニアが全国に10万人もいるオオクワガタとなれば、様々な品種育成も進んでくる可能性は大きいと思われる。
ただ、マニアの間では暗黙の約束があるようである。それは、より大型の個体である外国産オオクワガタ(台湾オオクワガタ、グランディス等)の血は入れてはいけないというルールである。もともと、国内にいてはいけないはずのものではあるが、いくらでも国内に出回っているし、交配も簡単に出来てしまうため、大型個体作出は可能と思われるのだが、マニア達はこの行為に関してだけは、いたく軽蔑しているらしい。
 しかし、人の考えは様々である。そんなルールも無視をして、育種そのものを楽しむマニアが今後は増えていくのかもしれない。

カブトムシの繁殖飼育法

多くの方は、蓋付きのプラスティック水槽を用いて飼育されていることと思う。 確かにそれでも良いのだろうと思うが、私は、最低でも衣装ケース(押入に入れる半透明のケース)の大きさが必要ではないかと思っている。この蓋に、金切りばさみで15cm角位の穴を開け、ネットを張った物を作り、ケースの中には、発酵マット(カブトムシに限っては、エノキダケ栽培の廃オガコでもよい。)を厚さ15cm以上入れ、親虫に♂5♀5以内で飼育しておくと自由交配により産卵する。♀の数は、多くしないほうがうまくいく。
餌には、バナナを丸ごと一本、一部皮を剥いた状態で入れておく。3匹に1本宛位を2日に1度の割合くらいで与えると良いであろう。また霧も吹いてやる。
9月に孵化状況を確認し、衣装ケース1つ当たり幼虫30匹程度に止めるよう、他のケースにも幼虫を拡げ、20cm以上の厚さになるようマットを入れておく。 衣装ケースは、蓋との間には、乾燥防止のため、穴あきの大きなビニールを挟み込み、軒下等に重ねて積んで置けばよい。夏の間は絶対に避けなければならないケース置き場に当たる直射日光も、秋から春にかけてはそれほど気にしなくても良いようである。
カブトムシの場合は、クワガタと違って1年で卵から成虫になるので、数を増やすのは、簡単で、広い飼育場所と大量の餌の確保ができるかどうかだけである。また、クワガタと違って、羽化するまで、集団で飼育ができるのが最大のメリットである。これは1年1化のため、経過が揃うことと、平和主義者のようで喧嘩は強いが相手を絶命させる、つまりは食糧としてしまうクワガタの♀のようなことがないからである。5〜7月上旬にかけては、蛹化、羽化の時期であり、容器を動かしたり、マットをほじったりしてはいけない。蛹化の前の前蛹の期間と蛹の期間がそれぞれ2〜3週間あるので蛹の部屋を作り始めてから1ヶ月〜1ヶ月半の間は、とにかくそっとしておいたほうがよい。この時期に動かしたり、いじったりすると蛹化不全、羽化不全で、死亡したり、奇形になってしまうと思った方がよい。羽化後は蛹室に2週間ほど留まって、体が固くなるのを待っているかのような期間があるが、この間に一斉に人工的に掘り出した成虫は、しばらくの間、おどおどしているが、本来自分で外に出るべき時期が来ると、思い出したように元気に暴れ回るようになるので、成虫購入の際には、きれいだけれどおどおどしたような成虫がいた場合、人工飼育物で、出荷の都合のため、強制的に掘り出された物である可能性もあり、かえってこういった個体の方が、若いということであるので参考にされたい。


地域興しへの活用の可能性

 カブトムシは、地域興しや農家の副業や直売の季節商品として各地で採集、飼育、販売がされているが、エノキダケの廃オガコで発酵したものや椎茸の廃ホダ木が使え、集団飼育ができ、保温等特別な施設がなくても1年で成虫にできるため、誰でも取り組める。ただ、屋外での幼虫飼育については、畑等の土面へ直接オガコ等を積み上げて行う場合には、モグラの食害が発生するので、金網を張ったり、コンクリート面の上での飼育とした方がよい。6月以降これらの上にネットを張って、発生成虫を夜の8時前後に回収するのがよいであろう。
 カブトムシにくらべてクワガタは経過は揃わないうえ(卵から成虫になるまで3ヶ月のものから3年以上かかるものまで差がある)、種類によっても飼育法が多少違うし、集団飼育もあまり進められず、エノキの廃オガコもエサには使えない種類が多い等、地域興しで簡単に取り組むには若干不向きの感がある。どうしても詳しい人間による管理が必要である。
 カブトムシもクワガタもマニアにとっては、一年中取引対象になり得る物であるが、一般の方々にとっては、あくまで夏の風物詩的な商材である。初夏から盛夏にかけてしか需要は望めないものであり、小学校の夏休みの終了とともにただ同然となるものであった。しかし、オオクワガタのように長生きの種で、人工的な加温によって、年中繁殖飼育ができるようになってきてからは年間を通じて商材とできるようになってきている。つまり、年間を通じての消費を支えているマニアを視野に入れた全国展開を図る必要がある。そうなった場合は、マニア達が大量に養殖している虫そのものより、むしろ、マニア達が膨大に消費する産卵木、幼虫飼育木である椎茸のグヌギホダ木(ハウス栽培で昆虫類の侵入がない物)や幼虫のエサとなるオガコ(マット)、菌糸ビンの製造販売のほうが有望である。 少なくとも平成10年〜11年は、不況もどこ吹く風の第2次?オオクワガタブームといわれ、シイタケの収穫が終わったホダ木を14cm長に切断、乾燥し、はくさいダンボール(長野県経済連の箱が、業界では1番人気なのだそうだ)に詰めた物が3,000円から10,000円程度で飛ぶように売れているのである。シイタケの生産現場でも、きっと昆虫業者からの商談が少なからず入っているのではないだろうか。飼育資材の製造販売をしている業者では施設能率アップしてフル操業しても、あっと言う間に飲み込まれてしまうような爆発的な需要拡大でパニック状態である。そこに来て、外国産40数種の解禁である。外国産は密輸物だからと手を出さなかった健全な虫好き達もが一気に触手を動かし始めるはずである。だれか資材製造販売を応援してあげてはどうですか。

本当のマニア達の撤退

今後はいよいよ一般人レベルまでこの趣味が浸透してきそうである。飼育歴2〜3年程度の昨日今日始めたばかりの連中も自称専門家となって蘊蓄をたれるに違いない。企業秘密がオープンになり、特権が特権でなくなって、素人とマニアの垣根も消え、こよなく愛して住んできたその狭間から追い出されそうである。 終わってみればあの入手欲が懐かしい。一般に知れ渡ることが本来の愛好家の望む姿なのかもしれないが、ここまで簡単に入手ができるようになった物に対しては、マニア達はもう興味が沸かないだろう。私のスタンスも同時に消えるときがきた。
 自然の物は自然の中に有ってこそ生き生きとすると言っていた親父の言葉が、やはり正解なんだという時代が来たようである。

昆虫市場について

 ペットとしての昆虫市場(日本国内)に限るのだが、正確な統計があるのかどうかは知らないが、今までに目にしたり聞いたりした情報は、大変少ない。農林経済の専門誌に載っていた「昆虫の産業への利用」の記事の中にあったペットとしての利用での市場の規模が8億円で、将来の見込も8億円と横這いであり延びは期待できないというのが一つ目。テレビで昆虫卸売業者の紹介のシーンがあり、昆虫市場の規模は50億円であるというものが二つ目。この数字は大手昆虫卸商に聞いた数字と思われることから、エサ、容器等の関連資材も含んでいるかもしれない。平成11年になってフォーカスに掲載された「80mmのオオクワガタが1,000万円」の記事の中では、オオクワガタ市場規模が、ファン数10万人、150億円市場となっていたのが三つ目の情報である。昆虫の種類については、スズムシ、カブトムシ、クワガタムシ、水生昆虫(タガメ、ゲンゴロウ等)等と思われるが、一般の消費者に対しては一部のデパート、ホームセンターやペットショップで販売されていることが多いが、その種類は広がる傾向にある。
 良く話題に載る前述のオオクワガタであるが、オオクワガタは現在、飼育者、養殖業者の数が多すぎて、そこから産出される個体数は膨大で、子供でも手の出る価格に続落してきており、一般市場での需要拡大はあっても、個々の飼育者段階での採算性は無くなったと思われる。すでにマニアの興味の対象も、植物防疫法を犯して国内に持ち込まれたであろう大型の産地限定外産クワガタ等に移っており、高値需要を支えてきたマニア達の買い支えも期待できない。ただ、昆虫市場は、販売方法というか、利用方法の開拓の余地はまだまだあると思われ、観光農園ならぬ観光昆虫採集園といったものへの利用も模索されよう。また、教育資材としての利用については、蚕糸業法の廃止に伴い、蚕についての販売の規制、飼育規制がなくなることから、新たな商材としての利用が可能となり、様々な品種、人工飼料等を組み合わせたセット販売商品が誕生してくるかもしれない。
なお、1999年11月植物防疫法の施行令か何かに記載されている有害動物から40数種の外国産カブトムシ、クワガタムシが外されたことから、輸入が解禁となり合法的な取引が可能となったことから、外国産カブトムシ、クワガタムシがかつての熱帯魚の感覚で取り引きされる様になる可能性は高い。このことは、1個人で膨大な消費を行ってきたマニアにとっては、興味の半減を意味することとなり、一般レベルの消費層の拡大に反して、マニア市場の縮小を促す可能性が非常に高いと見るがどうだろうか。

(記述期間1996〜1999)

トップページへ
クワ・カブの部屋へ