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NO.41「IRON小学校高学年−6」

団体戦は参加することに意義がある・・・・だけだと思っていたら。

なんとLIGHTくんが勝利。
初戦突破となった。

団体戦2回戦はGRIP小学校。
IRONのチーム同様先鋒にエースを持ってきている。
他のチームを見ても先鋒に一番大きくて強い選手を持ってきているところが多い・・・いやほとんどだ。

そうこのチームこそ・・・率いるは先鋒WEALTHくん
太くはないが立派な体の選手だ。
むしろ非常にバネが強そうないい体をしている。

IRONなぜかきょろきょろと会場を眺め回しているうちに呼び出し!

「東、GRIP小学校チームWEALTHくん」「はい。」
「西、SOUTH小学校チームIRONくん」
「はい。」


土俵中央で対峙する二人
(このシーン・・・・・後々・・・・・忘れられないシーンになっていく・・・。)

「手をついて〜はっけよ〜い・・・    のこったー!」

立ち会いはお互いに真正面でぶつかり合う。
普通の相手なら、簡単に押し込んでいくIRON、そしてそれはWEALTHくんも同じ。
実力者同士、一瞬動きが止まり四つに。
しかし体格に勝るIRONが、WEALTHくんがIRONの上手に手をかけた頃には、ズンズンと寄って出てそのまま土俵際まで寄り立て一気に寄り倒した。

ズドン!!

WEALTHくんは後頭部に、IRONは倒れた勢いで首のバウンドで衝撃を受けるほど一気の寄り倒しであった。

IRONにはいつもの勝利であったはずである。

しかし、この勝敗が両者にもたらしたものの意味は大きくちがってくることになる!

WEALTH・・・・・頭の良いヤツ。


       コンティニュー → わんぱく相撲地区大会4年生男子団体の部3



NO.42「IRON小学校高学年−7」

先鋒のエースさえ倒せば・・・・団体戦は勢い。
LIGHTくんが勝利し、2回戦も突破。
予想外の団体戦決勝進出となった。

残るは決勝戦のみ。
一方で決勝に勝ち残ってきたのは、RICHくんとTRUEくんを擁するCHECKM小学校。
エース級2名がいるこの学校は圧倒的に有利。

わがSOUTH小学校のLIGHTくんとBEGINくんがRICHくんあるいはTRUEくんに勝てる確率はほとんどない事は間違いない。
つまりIRONがRICHくんかTRUEくんのどちらかをつぶせば何とか可能性が残るが、IRONが残りの一人に当たってしまえば敗北は決定的になる状況であった。

しかし、団体戦は対戦順を勝手に変えられないルールであったためCHECKM小学校の先鋒はRICHくん。
IRONは、またもRICHくんとの対戦である。
実力差はわずかだと思うのだが、勝ち癖というか、IRONは自信満々、RICHくんは苦手意識が芽ばえていたのでは。


「東、SOUTH小学校チームIRONくん」「はい。」
「西、CHECKM小学校チームRICHくん」「はい。」

土俵中央で蹲踞する二人

「手をついて〜はっけよ〜いのこったー!」

立ち会いからIRONはRICHくんの胸めがけて突進。
立ち腰で受けたRICHくんの両差し手を押っつけて、

一気に土俵際まで持って行きそのまま豪快に 突き倒した!!

ズッドーン!





 申し分なし、個人戦の不調はどこへやら?・・・・・・・??




       コンティニュー → わんぱく相撲地区大会4年生男子団体の部4



NO.43「IRON小学校高学年−8」

 CHECKMチームのエースの一角を倒したSOUTH小学校チーム。

 もう一人のエースTRUEくんを倒すのは不可能に近いので、全ての期待はLIGHTくんの双肩にかかってきた。

 ただ、はなっから団体戦には期待はしていなかったため、決勝に残っただけでたいしたもんだと気楽に見守る父兄団。


 ところがLIGHTくん、予想を裏切って、自分より大きな相手を投げ飛ばしちゃった。

 ということは、団体戦優勝?

 優勝なのか?

 優勝なんだなー!!

 団体戦初出場初優勝!!





 団体戦が終わってお昼ご飯。

 「そんなに喰って大丈夫か?」

 「だってお腹減っちゃったんだもん。」

 「午後の相撲に差し支えるぞ。」

 「へーきへーき」

                                                           


                                                              (平気じゃないっちゅうに!)




        コンティニュー → わんぱく相撲地区大会4年生男子の部準々決勝へ



NO.44「IRON小学校高学年−9」

ついにその時はやってきてしまった。



お昼が終わるといよいよ個人戦に残ったベスト8の選手達によるトーナメントが始まる。

準々決勝第1試合にさっそくIRONが登場した。

準々決勝の相手は、団体戦2回戦で対戦したGRIP小学校のWEALTHくんである。

彼は、団体戦でも見せたように、かなりの実力者であるとともに学習能力があった。

そう、そしてIRONには油断があった。


「ウ〜ン苦しいよう。まわしがきついよ〜」
「食い過ぎなんだ!あほう!」

そんな会話を残し、対戦に向かったIRON。



「東、SOUTH小学校チームIRONくん」「はい。」

「西、GRIP小学校チームWEALTHくん」「はい。」

「はい見合って、両手をついて」

(その時、IRON・・・・仕切り線より前に手を付いたため仕切り線より下がるよう注意を受けた・・・・・一瞬気が抜ける・・・・)

「はっけよーいのこった〜」

IRONいつものように当たる。
WEALTHくんも当たる。

IRON当たり勝ち頭を下げて前へ出る〜〜〜〜〜その瞬間!!!




        コンティニュー → アイアン父の悩みスタート



NO.45「IRON小学校高学年−10」

IRON当たり勝ち頭を下げて前へ出る〜〜〜〜〜その瞬間!!!


WEALTHくんが鋭く右に回り込んでIRONの下がった頭を下にはたいた!



弾むような感じで前へ傾き、あっさり両手を土俵につき、すぐに体を起こすIRON・・・・・


あっ!!・・・・・・・・・


静まりかえる会場・・・・・・

なぜなのか・・・・歓声が全くない・・・・・・・・




「まぬけ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」(←アイアン父の小さな呻きだけ・・・)


何が起こったんだというように苦笑いを浮かべながら・・・・

行司役の教師に促され・・・・・土俵の定位置に戻る・・・・IRON

首をかしげながら礼をし・・・・・・戻る・・・・・




(まともにやったらかなわないからなあ、注文をつけてやるか・・・)
頭のいいヤツWEALTH。




  コンティニュー → 初●本人サバサバ・父往生際悪し



NO.46「IRON小学校高学年−11」

首は傾げたが悪びれも、ふてくされる様子もなく戻ってきたIRON。

普通の親なら、団体戦も優勝し、個人戦もベスト8まで残った我が子に「残念だけどよく頑張ったなあ、よくやった、来年またがんばろうね」などとねぎらいの言葉をかけるらしいのだが・・・・・・

(アイアン父→IRON 第一声)
「まぬけ〜!むかっ


「だっ・・・・だって、しょうがないじゃん、まわしがきついんだもん」

「まわしなんか関係ないわ! 昼飯の食い過ぎじゃ!!!」


「くっそ〜!秋の大会は、ぜ〜ったい優勝してやるう!!」

馬鹿ったれ〜・・・秋に優勝しても、国技館はないわ!」



そう昨年の大会で大会スタッフさんが掛けてくれたあの言葉。

私の悩みがいよいよ現実の姿を現した瞬間でありました。


一方IRONに勝ったWEALTHくんはというと・・・・・

準決勝で足取り小僧MOUNTをその足取りで破り決勝進出。

そのままの勢いで優勝するかと思われたが・・・

IRON戦で味をしめたのか注文相撲をやってしまい

正攻法FIELDくんの寄り倒しに屈して、彼もまた国技館を逃したのでありました。



  コンティニュー → 他のルート



NO.47「IRON小学校高学年−12」

普通の親なら・・・・・
「ああっ終わった終わった。さあ帰るか!」


でもアイアン父の考えていたこと・・・・・


何か・・・・・・?   何かほかに・・・・・?

ルートはないのか?



その時点では、私はまだ、わんぱく相撲大会というものが、一体どんなものであるのか?
・・・・実はよくわかってはいなかった。

わんぱく相撲大会とは・・・・
どういう大会運営がなされていて・・・・
地区大会とはどういう位置付けのもので・・・・
国技館で開かれる全国大会とはどんなもので・・・・
全国からどんな形で選手が選ばれ・・・・
どのように営まれているのか????????


全国大会があるというとは、地方大会があるはずだが、今日IRONが出場した大会は、地方大会でもなければ県大会でもなく、地区大会である。

ということは、去年スタッフさんが言っていた、「来年優勝すれば国技館に行けるね。」
という情報は、地区大会を勝ち抜いて県大会や地方大会を勝ち抜けば、国技館で行われる全国大会に行けるね・・・・ということではなく
・・・・・・・この地区大会に優勝すれば・・・・直接全国大会に行けることを意味するわけだ。


だとするなら・・・・!!






この県内の他の地区でもわんぱく相撲地区大会が開かれているということはないのか!?!?!



          コンティニュー → ほかのルート2



NO.48「IRON小学校高学年−13」

わんぱく相撲地区大会が終わって何日か経ったある日の深夜のことであった。

何気なく見ていたテレビ。
長○放送の深夜番組はやたらとコマーシャルが多かった。
相変わらずだなあと思う私が次の瞬間、テレビの画面に釘付けとなる。



テレビ画面に映し出されていたのは土俵の上で小さな子供達が相撲を取る様子であった。



「長○放送主催 第○回長○県小学生相撲選手権大会出場者募集、県内にお住まいの小学生であればどなたでも参加出来ます。学校を通じて申し込み・・・・・・・・」

「!!!」








・・・・・なんだかよくわからん・・・・





・・・・・よくはわからんが・・・・・・・



  
これは・・・・・・・・・・


  これには・・・・・・・・・・

 
出るしか・・・・・・


 
ないだろ〜〜〜〜




 
IRONよー!!

 
           


                コンティニュー → そこは別世界



NO.49「IRON小学校高学年−14」

(アイアン父→IRON)「こういう大会があるが出るか?」

(IRON即答)「出る!」

(アイアン父→アイアン母)「どうする?連れてってみるか?」

(アイアン母)「当然!」



参加申し込みは学校を通さず、電話で直接行った。

・・・数日後・・・

長○放送主催 長○県小学生相撲選手権大会は、IRONとアイアン父母が住む長○県の南端とちょうど反対の北端に位置する長○市運動公園の相撲場で開催される。

自動車では3時間の道のりである。




「ひょっとして、この大会で優勝すれば、国技館で開催される、わんぱく相撲全国大会に出ることが出来るのではないか?」という疑問兼期待を胸に、世間知らず親子はポンコツ車で長○市を目指す。

会場が近づくにつれ、自然あふれる地区大会の会場と大きく様相のちがう景色に包まれ、家を飛び出したときの自信、勢いは次第次第に不安、不信へと変わっていく。

IRONとアイアン父と母が住んでいる地と比べ、そこはそれなりの規模を持った施設。

運動公園という名のスポーツ施設群。

その一角に着くと同時に目にした光景は・・・・



奇妙な格好をして稽古(練習)をしている一団であった。

木○福島少年相撲クラブ!



                コンティニュー → そこは別世界2



NO.50「IRON小学校高学年−15」


「木○福島少年相撲クラブ」

屋根というか幌というか、そう書かれたテントの近くにマワシをすでにつけた子供達の一団が何とも奇妙な格好をして、見たこともない練習をしている。

(後にわかったことであるが、それはすり足の稽古であった。)

しかもその一団ばかりではない。

塩○市少年相撲クラブ、長○市少年相撲クラブ・・・・     なにこれ!?

我々はいったいどこに来てしまったんだ?


まわしをつけて稽古をしているということは、myマワシっちゅう事だよねえ当然。

我々の地区のわんぱく相撲大会では、予選なんか半ズボンに柔道の帯を腰に巻いてやっていて、準々決勝からやっと借りたマワシをスタッフに半ズボンの上につけてもらってやっていたのに。

普段から相撲を習っている連中が出てきているんだ・・・・ふ〜ん・・・・・って!

感心している場合じゃないわ!!


来るところを間違えてしまったのだろうか?
正直IRONも私もアイアン母も・・・・・ビビリ−気味?


またこの大会には対戦表は用意されていなかった。

当日のくじ引きでトーナメント戦のどこになるのかが決まるシステムになっていた。

つまり同じ学校や同じ相撲クラブ員がいきなり初戦で当たることも当然あるわけだ。

幸か不幸かIRONの初戦の対戦相手は・・・・・小柄な選手であった。



                コンティニュー → そこは別世界3



NO.51「IRON小学校高学年−16」

わんぱく相撲地区大会では小学校の先生達が、行司役を務めていて、ジャージ姿がほとんどで、たまに上着が半袖の運動着という出で立ちであった。

しかし、この大会の行司は、白いズボンにワイシャツ、蝶ネクタイを付け、手には白手袋をはめている。

「礼!」
(そして選手を土俵中央に寄せる両手の動作)
「かまえて!」
「ハッキヨイ!」

「のこった〜のこったのこった〜     勝負あり!」

・・・・・・う〜ん・・・・・地区大会と全く雰囲気がちがう。

これは・・・・相撲競技の審判員なんだ!


私たちは・・・・私たちはいったいなんというところに来てしまったんだろう???
そんな思いがますます強まっていく。

そして競技開始。


IRONは初戦、小柄な選手が相手なので大丈夫だろうな・・・・・と思っていたのだが・・・・



「東SOUTH小学校IRONくん」「はい」
「西NAGAM小学校LITLくん」「はい」


                コンティニュー → そこは別世界4



NO.52「IRON小学校高学年−17」

小柄な選手なので初戦は大丈夫だろうな・・・・・と思ったのだが・・・・

「はっきよい! のこった〜のこった〜」

簡単に押し出すだろうと思っていたところ、相手がなかなかすばしこい。

つかまえて寄っていって、投げるように土俵から出したところ、IRONも一緒に土俵の外へ。

そうはいっても勝ったなあと思っていたところ・・・・なにやら審判団が協議???

結局取り直しが告げられる。

なぜ???

そしてその取り直しの一番も、同じような相撲で勝ったよなあ・・・なのにまた協議

再度取り直し・・・・????

さっぱりわからん???


三度目の正直とばかり・・・・・IRONは土俵中央で下手投げを決めた。

今度は審判達もケチのつけようなし。



2回戦も小さな選手。

IRONめは土俵際が懲りたのか・・・本当はあまりよろしくないのだがまたも投げ技。

勝ってはいるもののなんか一生懸命。

余裕はあまりない。

地区大会の時の小柄な選手達と明らかにスピードがちがう。

そう、これは実質の県大会なのだ。

準々決勝に何とか進んだIRONであったが・・・・

いよいよ対戦相手は相撲クラブ員。

協議開始前、同じクラブ員達を相手に稽古をし、ちぎっては投げをやっていたmyマワシ装着組の一人だ。

塩○市少年相撲クラブ員・・・・・IRONがいよいよ本物達の力を知る瞬間が迫っていた。



                コンティニュー → クラブ員の実力



NO.53「IRON小学校高学年−18」

塩○市少年相撲クラブ員。

上背はIRONが若干勝るものの、体格はいい勝負。

いかにも力強そうなその選手は、素人のIRON相手にも手を抜くことはなかった。


「はっきよい! のこった〜のこった〜」

普通の相手なら難なく押していくIRON。

WEALTHくんを押したときも一方的に持って行ったIRON。

そのIRONが渾身の力を込めても相手は全くさがらない。いやびくともしない。

その原因はやはり腰の高さの違い。

IRONの腰の高さでは、その相手は押せない。

対戦前のIRON父の忠告「相手はクラブ員だ。おまえの投げをくうことは絶対無い。負けてもいいから押していけ、寄っていけ。」

それもむなしく、なすすべの無くなったIRONは何とかのぞいている右の差し手から下手投げを打った。

下に食いつかれ伸びきった体は、待ってましたとばかりの相手の外掛けにむなしく土俵に沈んだ。


今度ばかりは・・・・・今度ばかりは・・・・圧倒的な実力差・・・

「まぬけ〜」とはいえないアイアン父

IRONはと見ると・・・・・

運動広場の芝生に座り込んで下を見ている。

歯を食いしばってくしゃくしゃになっている眉間・・・
そして目からは大粒の涙を二粒三粒と落としている。

負けても勝ってもヘラヘラしていたIRONの姿はそこにはなかった。



嗚咽しながらIRONは・・・・・

「来年も・・・絶対に・・・ここに・・・戻ってくる。そして・・・絶対あいつに、勝つ






                コンティニュー → 秋に向けて



NO.54「IRON小学校高学年−19」

4年生の後半は、IRONの成長がやや鈍る。

成長とは相撲の技術の成長ではない。

文字通り体の成長である。

いや、IRONの成長が鈍ったというよりは、まわりのほかの子供達の成長が始まったと言った方がよいのかも知れない。

相撲クラブ員の強さを体感したIRONは地元にもどり、秋の地区選抜相撲大会を目指していた。

3年生までは大きな部類に入っていたIRONであるが、まわりの成長の早さに追いつかず、大きな部類から中位な部類に降格しそうな状況である。

そして、「秋は絶対に優勝してやる」と息巻いた大会がやってきた。

秋の相撲大会が開催されたその日は休日。

しかしアイアン父は仕事で某運動公園のイベント会場にいた。

(IRONのやつ・・・・どうだったんだろうかなあ?)

そんなことを思いながらイベントも一息でぼうっとしていたときであった。

後ろから子供が背中をつついた。

振り向くと・・・・IRONが笑って立っていた。




(笑っているということは・・・・・

「どうだった?優勝するんだったよなあ!」
(ひやかし気味に聞いてみると・・・・・)

「うん!」

そうか・・・・秋の大会は相性が良いみたいだなあ・・・・国技館はねえけどね。

4年秋地区選抜相撲大会6戦全勝、連覇。

左から3.4.5.6年優勝者



                コンティニュー → オーバーワーク



NO.55「IRON小学校高学年−20」

IRONは5年生になろうとしていた。

ヤツの筋肉を培った大宗を担う競技もまた年ごとにその練習の厳しさを増していた。

そのスポーツクラブの選手コースといわれる所に所属する子供達にとって、ゴールデンウィークと言われる時期は世間の浮かれっぷりとは逆に憂鬱な時期であったに違いない。

泊まり込みではないにしろ、その時期は午前午後通じた強化練習が毎日行われるのである。

その練習は、選手コースに初めて移っていった子供には特にきついものであったようだ。

脳天気、油断するとすぐ太る体質のIRONが、運動の激しさでエネルギーが消費され、食欲低下と体重減少という事態も招くくらいであった。

このことは、相撲競技にあっては命取りである。

まあ、相撲よりこのスポーツクラブでやっている競技の方がお金も沢山掛けている分、大事といえば大事なんだが。

4年生後半から他のライバル達に体格で追いつかれ追い越されの状態であったIRONであるが、加えて5年生になってからのこの厳しい練習での体重減と体調悪化は、相撲と、さらにIRONがもうひとつやっていた「第3の競技」にも悪影響を及ぼすこととなった。

その第3の競技は柔道。

柔道クラブに所属して、初めての大きな試合での出来事であった。



                コンティニュー → これはでれんかも



NO.56「IRON小学校高学年−21」

柔道クラブに通い始めてわずか2ヶ月。

いきなりの試合は期待と不安が入り交じり。

相撲ではそこそこやるようになったIRONも、柔道はしょせん素人。

しかもその大会は、近隣市町村を参集範囲とした大会ではなく、広い信州を4ブロックに分けたブロック大会。

物心着く頃から柔道をやっている選手達が集まっっている大会である。

初戦こそ難なく突破したIRONであるが、2戦めがいきなり強豪との対戦となってしまった。

選手歴何年という選手。しかも常勝クラブ員。

背格好はIRONと同じくらいであるが、体重はIRONを凌駕している。

前半戦こそそこそこ戦っていたIRONであるが、後半疲れ始めた頃であった。

相手の払い巻き込みで投げられ、その際、まともに胸の上に乗られてしまった。

「一本、それまで!」

相手選手が立ち上がった後も、IRONは起きあがれない。

何とか立ち上がったIRONはそのまま看護コーナーへ。

応急手当をしたIRONであったが大会終了を待たず、IRON父の車で病院へ直行したのであった。

肋骨をやっているのではないか?

それがその時の直感であった。



幸か不幸か・・・・病院での診断は肋骨はぎりぎり大丈夫であった・・・・が・・・
当分運動は控えるようにということであった。


・・・・目の前に・・・わんぱくが・・・わんぱくが迫っているというのに・・・・。

息子の体より・・・・・わんぱく相撲大会の方が大事なのか・・・・アイアン鬼父!!




                コンティニュー → 一難去ってまた一難



NO.57「IRON小学校高学年−22」

5年生の春先というのは、IRONにとっては踏んだり蹴ったりの時期であった。

クラブ選手強化練習のやりすぎによる減量と体調不良のほかに、学校の体育の授業で膝も痛めていたのである。

そこに持ってきての柔道の敗戦と胸のけが。

もうわんぱく相撲大会どころではなかった。体ボロボロ!

それでも3つやっていたスポーツで一番好きだし一番センスがあったのは相撲であったし、去年行けると勘違いしていた国技館も戦わずしてあきらめることも出来なかったのである。

無理してでも出場したわんぱく相撲地区大会。

まあ並の選手相手なら少しくらい怪我をしていても勝てるであろうが、アイアン父の目から見ても、強豪ライバル達には体格差をつけられていたIRONには相当厳しくなる大会であることは明らかであった。

個人戦スタート。
初戦は、大会初参加の無名選手。

ずんぐりむっくりの不格好でとろくさそうな小さな選手だったので、ここらへんは問題ないだろうと思っていた。

しかしどんなヤツかわからないので立ち会いは突き放して様子を見ろとIRONには指示をしてあったのだが・・・

人の言うことを聞いていないのもIRONの大きな特徴であり、この時もやっぱり聞いていなかった。


しかもこのずんぐりむっくり野郎! ・・・・・・・・・とんでもない見込み違いであった。




                コンティニュー → 2年も待ってもう終わり?



NO.58「IRON小学校高学年−23」

ずんぐりむっくり相手に、地区大会優勝経験のあるIRONは横綱相撲をとらなければいけないという気持ちがあったに違いない。

「はっけよ〜いのこった〜」

立ち会いの当たり!

突き放して様子を見ることもせず、つかまえて一気に寄り立てようと前へ出るIRON。

ヒザが悪い分かなり立ち腰である。

寄られてさがりながら・・・ずんぐりむっくり・・・・

思いっきり右から投げをうった!

IRONも・・・目の前の相手が一瞬いなくなったようなかんじのところに、投げの追い打ち。

不覚にも、土俵にあっさりと手をつくばかりか・・・・踏ん張りがきかず転がって倒れた。


ずんぐりむっくり・・・・想定外の強引な投げとその強さ
IRON・・・・・ヒザと胸の怪我で全く踏ん張る力なし
IRON・・・・必要もないのに横綱相撲をしなくては、の変な自負での強引な寄り

全てが一瞬に重なって・・・最も悪い結果に集約した瞬間であった。

「2年待って・・・・もう終わりかよ・・・・・」




国技館は・・・・国技館は・・・・遙か・・・遙か遠くであった。



                コンティニュー → 転機!



NO.59「IRON小学校高学年−24」

「おしかったな〜」FIELDくんの慰め・・・

「どうしたんだ〜!」WEALTHくんの叱咤・・・

どちらにも今のIRONは、うつろに頷くだけ・・・・

とりあえず団体戦では2勝したものの、チームメイトの敗戦で本日の競技は終了・・・



IRONを倒したずんぐりむっくりは、調子に乗って強引な投げで勝ち上がっていくが・・・・

RICHくんとの対戦でやっとおとなしくなった(負けた)。


そして5年生男子の部は、準決勝でFIELDくんに雪辱したWEALTHくんが、決勝でもRICHくんを突き落とし、念願の優勝と国技館へのチケット(メダル)を手にしたのであった。



IRONも今回はWEALTHを祝福している。


そして・・・・



そして、これを最後に・・・・・この地で・・・・この地区で開かれる相撲大会において・・・・




今日のようなIRONの姿・・・今日のような相撲・・・

いや・・こんにちまでのIRONの相撲自体・・・・・もう二度と・・・見ることはなかったのである。





                コンティニュー → 別世界再び



NO.60「IRON小学校高学年−25」

胸の怪我はすっかり癒えたIRON。

ヒザはまだまだ本調子ではなかったが・・・



今年も長○県小学生相撲選手権大会にチャレンジしたのであった。

塩○市少年相撲クラブ員にリベンジするどころか地区大会初戦敗退後ではなんとも心許ないが、ボロボロ状態もようやっと脱出気味であるのを頼りに気楽にやってきた。


小雨そぼ降る大会場。


対戦相手を決定するくじは幸運にも一回勝てばベスト8。

しかも相手は細くて小さい選手。

まずは復調の腕試しである。


「かまえて!  はっきよい! のこった〜のこった〜勝負有り!」

IRONは小さな相手を突き放し、食らい付いてくるところを右差し手から振り回し、残ったところを頭を抑えながらさらに投げをうって仕留めた。

「東の勝ち!」


                コンティニュー → 前年度優勝者、つまり長○県一



NO.61「IRON小学校高学年−26」

準々決勝の相手は、長○市の選手。

身長はIRONに勝るが体重は同じくらいだろうか?

坊主刈りであるか否かで相撲クラブ員かどうかのおおむねの見当がつくが、この相手は坊ちゃん刈り。

ということは、myまわし装着組ではないということ。

IRONと同じく素人と見た。

「かまえて〜   はっきよい!    のこった〜のこった〜!」


IRONとの体当たりでも相手は簡単にはさがらない。

1回! 2回!  両手突きでお互いに突きあった後、IRONが右に回りながら左側に突いた。

相手はたたらを踏みながら土俵の外に向かって倒れ込んだ。


「ああ〜あ   負けちゃった!」・・・とは相手の応援団のため息。

「東のかーち!」

土俵の俵手前で蹲踞、手刀を切ってさがるIRON。

準決勝に残った。

これは何を意味するのか、IRONもアイアン父も重々承知していた。


準決勝の相手は・・・・SIDEMくん・・・・・前年度優勝者。

つまり長○県一の選手だ。



                コンティニュー → 善戦、善戦、善戦



NO.62「IRON小学校高学年−27」

準決勝の相手は、昨年度大会優勝者のSIDEMくん。

もちろんmyまわし組だ。

身長、体重ともIRONによく似ている感じであるがSIDEMくんの方が腕が長そうだ。

双方土俵の俵のすぐ内側に立って。

「お互いに、礼!」


「おねがいしま〜す!」

背格好、色の白さ、坊主頭、どこをとってもよく似ている二人。

土俵中央での蹲踞。

「かまえて!・・・・・はっきよい!」


頭からぶつかり合う。

初戦、2戦目は簡単に相手を料理していたSIDEMくんにIRON真っ向勝負!

両四つから頭を相手の胸にあてて寄っていくのがSIDEMくんの必勝パターンだ。

案の定、IRONは浅いもろ差しに・・・・・

しかし、IRONは左右に腰を振りながら差し手を返し気味にSIDEMくんの体を起こしにかかり、ほぼ同じくらいの腰高さの体勢に組んだ。

SIDEMくんは無理をせず両四つの体勢で堪えている。


IRONはもろ差しで腰を段々低くしながら前へ出ようとするが、体が軟らかく腰が重いSIDEMくんなかなか下がらない。

IRONがもう一回仕掛けようとしたときであった。


SIDEMくんが右上手から振り回すような投げ〜

IRONもSIDEMくんの投げで、SIDEMくんの裏側まで回り込んで行った勢いをそのまま使って自分もうっちゃり気味の下手投げ〜・・・・・・

・・・・・しかしかなわず・・・・うっちゃりきれずSIDEMくんもろとも土俵の外へ倒れ込んだ。

もうちょっと・・・・でもそのちょっとが大きな差。

SIDEMくんに乗られた分ちょっとまた苦しい。

すわ柔道でやったところか!?


・・・・でもだいじょうぶそうだ。

会場は、準々決勝までの一方的な相撲に比べ、スピードと攻防の激しい対戦に拍手と歓声。

昨年の横綱相手に大善戦であった。

3位確定。

大きな意味の3位入賞であった。





                コンティニュー → 3位の選手までが



NO.63「IRON小学校高学年−28」

アイアン父がかつて持っていた疑問。

長○県小学生相撲選手権大会の優勝者は、国技館で開かれるわんぱく相撲全国大会に出場できるのではないか?

この疑問については・・・・残念ながらこの大会はそういった大会ではないことが明らかになったのである。

まあ、どっちにしろ優勝できないのだから同じ事なんだが・・・・

でも・・・・・

でもこの長○県小学生相撲選手権大会。

4年生以上の各学年の3位までの入賞者(4名)には、県大会よりさらに1段階上の大会への出場権が与えられることが明らかになった。

その大会とは・・・



ジュニアオリンピックカップ(JOC)全日本小学生相撲優勝大会北○越大会。


この北○越大会でさらに上位4名となったものが、国技館で開かれる全国大会に出場できるということのようだ。

もちろんわんぱく相撲大会とは開催時期も大会規模も大会運営状況も違うが、全国大会に通じている、つまり国技館に行くという目標には違いはなく、その目標はまだ生きているわけなのである。

(今考えるとなんと大胆な素人考えであったことか!)

そう、IRONは長○県小学生相撲選手権大会で5年生の部で3位に入賞したので、この北○越大会への出場権を得ることが出来たのだ。


しかし


しかしこの北○越大会・・・・・アイアン父の想像などあざ笑う、とんでもない世界であった。






                コンティニュー → 北○越大会に向けた合同練習



NO.64「IRON小学校高学年−29」

IRONが3位入賞を果たした長○県小学生相撲選手権大会が終わってから、JOC全日本小学生相撲優勝大会北○越大会までは約3ヶ月間がある。

この間IRONはスポーツクラブに所属している競技に専念するのだが、アイアン父は相撲が最もお気に入り。

スポーツクラブの競技には御法度の行為に手を染めることとなった。

それは、4年生後半から5年生前半までIRONが後れをとっていたもの・・・・そう
体の大型化・・・・単純に言うと太らせること。

相撲競技では体の小さい選手はよほどのテクニックがない限り、上の大会で勝つことは難しくなる。

アイアン父は、ウェイトアップ用プロテインをIRONに飲ませて北○越大会に備えたのである。

結果的には県の大会の時点で52kgあったIRONが、9月末の北○越大会の時には、58kgまで体重を増やすことに成功?したのであった。

「IRONもずいぶんと大きくなったなあ」

後にして思えば、対戦相手達だってもっと大きくなっている事に・・・気付けよ!




9月末の北○越大会の3日前。

長○県の代表選手を集めた合同稽古が木○福島少年相撲クラブで開かれたので、IRONを連れて行った。

IRONはここで初めて本格的な相撲の稽古を付けてもらうことになった。

そう、とても・・・・とても大きな転機であった。



                コンティニュー → 北○越大会そこは・・・



NO.65「IRON小学校高学年−30」

木○というところは、山の中です。

かつて林業が盛んで(今も)山仕事は屈強な力自慢の男達を育てたのです。

そんな地に今も相撲が息づいているのです。

初めての本格的な相撲の稽古を受けるのは、木○福島町相撲練習場。

(その練習場の隣には国体も開かれたという立派な相撲場まであった。)

相撲練習場施設は出来たばかりのようでピカピカ。

大相撲の稽古総見の様子を彷彿とさせる練習場であります・・・・すごい。


長○県小学生相撲選手権で4,5,6年生各部で3位までに入賞した12名のうち都合のついた10名が練習に参加していた。

5年生は、SIDEMくんを決勝で破ったPUREくんと、IRONと同じく3位のPADDYくんがここの相撲クラブ員である。

IRONだけが素人で、SIDEMくんも違う相撲クラブに通っている。

それなので、IRONにとっては彼らの稽古はまさに目にも新しい別世界。

一つ一つがすべて不思議な一日であった。



しかし、この不思議な稽古こそが、まさにIRONの相撲を一変させたのである。



                コンティニュー → 怪物の巣窟へ



NO.66「IRON小学校高学年−31」

稽古場に入るときは一礼して「お願いします。」

当たり前のことを当たり前にする。

一列に揃ってから、もう一度神棚に一礼。

稽古前の準備体操こそはなにかちんたらしたような感じのものであったが・・・

さて日本人には、おなじみと思っていた四股。

この四股・・・・なかなかどうして・・・・


素人に四股を踏んでみろといえばきっと、こんな四股になるんだろうと思う。

それは・・・・・横綱の土俵入り・・・・・の四股。

まず、まっすぐに立って、腰をかがめ右足を大きく横に勢いよく跳ね上げ、床が鳴るくらいに・・・ドスンと足を振り下ろす。

足を踏みつける位置は、肩幅の1.5倍くらいのところだ。

そしてもう一度まっすぐ立ち上がり今度は反対の足を、今振り下ろした足の所にすり寄せ、そこから一気に横に振り上げ、また床が鳴るくらいに振り下ろす・・・・よいしょー!っと。

四股っていうとそういうイメージであったと思う。


では・・・・この日教わった四股とはどんなものだったのか・・・・

似ていて・・・・似ていても・・・・・全く別物・・・・しかも・・・・相撲の稽古でも最も重要と言っても良いものであった。


まず肩幅くらいに足を広げて立つ。

腰をかがめるのは一緒。

ここからが違う。


持ち上げる足は体の真横に、勢い良くではなく・・・・ゆ〜っくり持ち上げていく。

一番上まであがったら・・・・そこで出来るだけ堪える。

そして・・・ドスンと振り下ろす???・・・・・・いいえ!振り下ろさない!!

これまたゆ〜くり降ろしてきて・・・・最初肩幅に足の位置を決めた場所に正確に静かに降ろす。

腰をグッとさげ・・・今度は反対の足。

今降ろした足の横まですり寄せてから???・・・・いいえ!すり寄せない!

肩幅の足の位置を決めたまま、その場所から・・・ゆ〜くり真横に持ち上げていく。

頂点に達したら・・・出来るだけ長く堪えて・・・・ゆ〜っくりおろし・・・・もとの足の位置にそっと降ろす。

これを延々繰り返す。


実際やってみるとすごく大変。

勢いよくやるのは簡単・・・ゆっくりやるのは・・・・こんなに大変だったのか!

でもゆっくりやるのは正に足腰の鍛錬。

相撲の稽古でよく四股を踏め!と言っているのはこういう事だったのかといい年してはじめてわかった。

子供達・・・・四股だけで延々・・・・汗だく!



                コンティニュー → まだまだ稽古



NO.67「IRON小学校高学年−32」

四股の次はいよいよ練習試合?

いえいえ・・・・まだまだ・・・

四股の次は、すり足という稽古。

膝を直角に曲げます。

膝を直角に曲げるためには、足をある程度拡げて腰を落とさなければなりません。

腿がとても・・・・とても疲れます。

その体勢で、上半身の方では肘を直角に曲げます。

直角に曲げた肘を脇腹の前面にひっ付けます。

つまり脇をしっかり締めます。

ちょっと前屈みになって・・・両足を同時にすり出す感じで前へ前へ移動していきます。

両足同時といっても跳ねてはいけません。

土俵に足の裏をすりつけながら前へ前へ移動していきます。

ザッザッザッザッ。


次はすり足と同じ姿勢で・・・・右に左にジグザグに動きます。

ズザッズザッズザッズザッ。

土俵際まで行ったら腰をグッと落として、両手で斜め前方の空間を下に押しつけるような動作をします。


これで・・・・・・・・・・・・・・こんなんで・・・・・・・・・・???

相撲が強くなるんだろうか???

でも・・・・・・・・でも・・・稽古している子供達・・・・・・・・・

特にクラブ員でないIRONを含む子供達・・・・フウフウ言いながら
滝の汗!!


                コンティニュー → 低く低く前へ前へ



NO.68「IRON小学校高学年−33」

すり足の稽古も終わって、いよいよ練習試合形式の稽古が始まるのかなあ・・・・・いえいえ・・・・まだまだあ!

試合ではありませんが、ぶつかり稽古といわれる稽古が始まります。

この稽古は一人では行えません。

ここのクラブ員である、一番体の大きなPUREくんの出番となります。

稽古をするのに彼の胸を借りるのです。

よく「胸を借りる」といいますが、これはこのぶつかり稽古からきているのだそうです。

そう、この日の稽古では、相撲は一人で強くなれない、師匠や先輩や同胞の胸を借りて強くなるんだという教育もしていただきました。

稽古をつけてもらう方が土俵の端で立ち会いの構えをします。

胸を貸す方が土俵中央より少し相手側に斜に立って胸を出して構えます。

胸を貸す方が準備が整ったら「よし!」と声を発します。

この声を合図に稽古を付けてもらう方の人間が相手の胸めがけて体当たりし、胸を押しながら前へ前へと出て行きます。

胸を貸した方は、土俵の上を反対方向まで足をズリ押されながら下がっていきますが、土俵際で堪えます。

押している方の人間は最後相手を土俵の外に押し出すまで引いたり、左右に回ったりはしません。最後まで休まず押し出すまで休まず・・・・

この稽古・・・相撲の基本は前に出ること・・・このことに徹したものです。

本当に何から何までが目先の相撲の勝利ではなく、基本から強くなるための地味なそして大切な稽古であります。

足取りのような技を明らかに体の勝っている方の選手が体の小さな選手に使うのを「男らしくない!」と言い切るIRONには、この日の稽古はまさに意とするところ。

この稽古・・・地味ではありますが・・・正に相撲の精神をも教え、自分を見つめ直すものでもあるのだそうです。

奥が深い・・・


試合も近いこともあって・・・練習試合はしない・・・・ということ以上に、まずは素人さん達に相撲の基本中の基本の伝統の稽古をつけることで、相撲道をも垣間見させて下さったのかもしれません。

木○福島少年相撲クラブの関係者の方々に感謝感謝。

                コンティニュー → 県を代表して



NO.69「IRON小学校高学年−34」

9月下旬のその日は、我が家にとっては、3秒間持ちこたえることを目標に、石○県金○市まで片道4時間もかけて出掛けた小旅行。

全ての勝手がわからず、木○の皆さんに頼りっぱなしであったが、IRONも長○県の実力ナンバー1,2,3の諸君とすっかり友達になってしまい、大会出場の喜びよりも、こんな強い選手達と友達になれたことの方が、一生の宝だなあと親バカの感想。


その大会が開催されたのは、石○県金○市卯○山相撲場。

金○市のすぐ脇にある山の頂上の運動公園の一角にそれはある。

長○県の人間から見れば、山というより丘なんだろうが・・・・

相撲場の施設は木○同様とても素晴らしいものであった。

長○県選手団は集合し、準備体操や稽古をするが、すぐとなりでもとても体の大きな選手が本格的な練習をしている。

きっと6年生なんだろうなあとアイアン父は思っていた・・・・その時は・・・

いよいよ試合が始まるというので、アイアン父母は相撲場の観客席の一角に陣取る。


相撲は、他の競技と違って試合時間が短い。

へたすると、0コンマ何秒なんて事もありうる。

何時間も掛けてやってきて瞬間で終わることもある。

せめてほかの試合も楽しまなくては。

楽しむ???・・・・・甘かったよなあ・・・考えが。



                コンティニュー → すごい奴らの本拠地



NO.70「IRON小学校高学年−35」

さて、この大会であるが、小学生だけでなく青年の皆さんの部も開催されることになっており、二つの大会が同時開催となっているのである。

というよりは青年の皆様の大会の中に小学生の部が組み込まれているといった方が正解か。

青年の皆さんの大会の名称は「全○本青年相撲選手権大会」

したがって観客も子供の試合を見に来ている方達だけではなく、大人の試合を見に来ている方もいるというよりはそちらの方々の方が多いくらいであり、目も肥えている。

観客席に居ると専門的な評価をしている年配の方の話も聞くとはなしに聞こえてくるので、勉強に?なる。

いわゆる通の会話ですわ。

青年の部の対戦が一旦休憩となって、いよいよ小学生の部の対戦が始まった。

4年生以上1県4名で5県なので60名の精鋭の対戦である。

この段階で私は、この60名の中に、とんでもない怪物達が潜んでいることなど知るよしもなかったのである。

知らないということは、ある意味幸せである。

なにしろ怖いもの知らず=身の程知らず。

今にして思えば、「本当にとんでもないところに行っていたんだなあ。」ということである。
子供達の対戦は、順番に進みヤツの対戦順もやってくるというのに長○県チームの選手達は会場に現れない。

やきもきしている私たちの気も知らず、ヤツが現れたのは、会場アナウンスで自分の名前がコールされている最中。

相手はとっくに土俵に上がっている。

のんきなIRONはまだ会場通路を歩いている。

おまえは宮本武蔵か?・・・・早くせんと失格だぞアホウ!!!!

待たされている佐々木小次郎は・・・・


ゲッ・・・・・あれは!!!

6年生じゃなかったのか!!!


6月末の対戦相手の自己申告データ

159cm88kg・・・5学年最重量・・・富○県の上○くんであった。

育ち盛りの小学生の3ヶ月前のデータが159cm88kg・・・・


ちなみに3ヶ月前のIRONデータ・・・149cm50kg・・・・

がんばってウェイトアップした今・・・152cm58kg・・・・



終わったな・・・・




                コンティニュー → 今度は俺がずんぐりむっくりだ



NO.71「IRON小学校高学年−36」

「東、富○県、上○くん」

「西、長○県、IRONくん」

土俵の良端に立つ両者。

・・・と、ここで・・・審判員がIRONに何か話しかけて中断。

どうやらまわしの縛り目に目印になる紐を付け忘れたようだ・・・

土俵をいったん降りるIRON。

上○くん、すっかりペースをかき回されたのでは?


やっとお互いに礼。

土俵中央によりあって蹲踞。

「かまえて!」

IRONは早々仕切り線に両手をつく。

上○くん、左、右と仕切り線に手をついた。

大きさがまるで違うぞ〜

「はっきよい!」


IRONは、30kg以上大きな相手に快心の立ち会い。

地区大会では見たこともないすごいスピードの立ち会いだ!


でも・・・そのIRON快心の立ち会い、体当たりを・・・何事もなかったように跳ね返し、前に出てくる上○くん。

IRONは押され押されて仕方なく右に右に鋭く土俵を回り込んで、上○くんを左側に突き落とした。

IRONも押された勢いが止まらず、後方に足が流れながら前に倒れ込んだ。

やった!勝ったんじゃないか!?

そう思ったのもつかの間、審判員は上○くんの方を指し示している。


「物言い!!」


どきどきして判定を待つ。



「ただいまの競技、同体とみて取り直しです。」


やった!3秒が6秒になった。


再び土俵中央に蹲踞する二人。

「かまえて!・・・・・
はっきよい!!

今度もIRONは、すさまじい立ち会いだ!

大きな相手に、思いっきり体当たりしている。

でも・・・・・でもやっぱり・・・・90kgを楽に超えているであろう上○くん、難なく跳ね返して前へ出てくる。

さっきの対戦と全く同じだ。

IRONは同じように土俵を右へ右へ回り込んでゆく。


しかし上○くん、先ほどの対戦で、まっすぐ前へ出て、IRONに鋭く左に回り込まれて、前に落ちてしまったのを教訓にして・・・・・右に回り込もうとするIRONの逃げ道をふさぐように自分も左側に左側に体を寄せていく。

先ほどと違って浅い四つになっていて、体が密着しながら寄ってくる。

万事休す、寄り切られるな。

そう思った瞬間であった!!




                コンティニュー → 怪物が見ていた



NO.72「IRON小学校高学年−37」

(負けてたまるか〜こんちくしょ〜)

IRONはその時そう思ったそうだ。

一方、上○くん。

最初の対戦でIRONに土俵際まで追いつめながら左に逃げられた記憶が頭にあるものだから、左に左に体を寄せ気味にして寄っていた

そこに来てコンチクショウのIRONが、コンチクショウと思っているものだから・・・

左の差し手から右側に向かって


・・・思いっきり投げを打った!


90kgを超える巨漢小学生の両足が、土俵から離れるのをアイアン父もはっきりと見た。

そして、その巨体は、きれいに半回転してから土俵の外に背中から落ちた!

58kgが90kg超の巨体を、もんのすごい豪快にぶん投げたのだ。

〜!!    (会場の歓声)

「やいやい!   2回勝った。」

相撲通の観客席の年配者がぽつりと放った一言・・・・・

(ちっこいくせに大きいヤツ相手にがんばったな〜)
と言う意味なのか?
強くて有名なヤツ相手に2度も勝ったが・・・誰だこいつは?)
と言う意味なのか?

・・・・・・どっちの意味で放たれた言葉なんだろう?

どっちにしろ・・・どっちにしろIRON・・・・まさかの初戦勝利!!

やった〜9秒に伸びたぞ〜




この対戦・・・・土俵下で・・・・その怪物も見ていた。





                コンティニュー → なにこのオーラ



NO.73「IRON小学校高学年−38」

IRONを含む長○県チームの5年生4人は、全員が初戦を突破した。

さて第2戦目であるが・・・・・今回もなにやらすごそうなヤツ。

3ヶ月前の自己申告データでは・・・・身長163cm体重85kg。

なんだよう・・・・初戦の上○くんに次ぐ2番目の重さの選手じゃんかよう。


仕切もすごい。

ゆったり・・・キビキビ・・・ゆったり・・・・キビキビ。

一方、IRONは早々仕切り線に両手をついている。


大きな相手、審判の「かまえて!」の言葉にも・・・・

ゆったり構えて、まず左手を仕切り線の前に・・・右手を仕切り線に突いた・・・と思った瞬間!

立ち上がってきた!

審判はその動作につられるように声を発した・・・「
はっきよい!

しかしその声がIRONの耳に届くのと、相手の両手突き第1波がIRONを襲うのにほとんど間はなかった。

立ち会いにつっこめなかったIRON・・・・まあどっちにしろ無理ではあったんだが。

その相手の突きの第2波がIRONを襲ったときはすでにIRONは土俵際であった。

そしてその第2波はIRONを土俵から3m吹っ飛ばし、土俵の外で両足のVサインを作らせたのであった。

左足首も軽くねんざ。

それにしてもこの相手・・・・これが本当に小学5年生なのか?????

何というふてぶてしさ・・・・いや・・・オーラ。

「慣れとるウ、突き出しかたガ。」

年配ギャラリーの言葉からは、「やっぱりこいつは強いなあ」という思いが言葉になくても伝わってきた。



IRONは土俵に戻り一礼をしてチームメイトの所に戻ってきた。

「え〜ん、負けちゃったよう」とPUREくんに泣き言を言ったところ・・・

「仕方ないよ、相手が新○だもん。」と言った。

「強いヤツなの?」と聞くと

石○三人衆の一人で、今年のわんぱく相撲全国大会でベスト8(小結)になった石○県の新○勝○だ!と教えてくれたそうだ。

・・・・・・これが・・・・これが全国のレベルか!!!

・・・・・・すごいわけだ。

こんな体の方々・・・小学生だって?

                コンティニュー → でも優勝は



NO.74「IRON小学校高学年−39」

長○県チームの5年生4名は、アイアン父の目から見てもまだ小学生らしさが充分ある。

そのせいなのかどうかは知らないが、全員2戦目で姿を消すこととなった。



5年生の部で全国大会行きの4枚の切符をそれぞれ手にしたのは、前述の石○3人衆と富○県の松○くんであった。

そして、ベスト4以上の激突は・・・・これが小学生の相撲?という高度な攻防の展開。


準決勝では、石○県の魚○くんと富○県の松○くんが脱落。

決勝は石○県同士、新○くんと山○くんが残った。


山○くんは体重こそ65kgということで結構あるのだが、身長は153cmとIRONに比べても驚くほど大きいということはない。

決勝も、どう見ても新○有利だよなあと素人は思っていた。


しかし、決勝戦はあのふてぶてしいと思った新○くんが仕切中からとんでもなく慎重だ。

この山○くんは石○県大会では1位になっているらしい。

つまりは県大会では新○くんに勝っているということのようだ。

上には上がある〜〜。

よほど曲者なんだろう、怪物のような新○くんがものすごく気合いを入れて期をうかがっっている。

そして、さあ立った・・・と思ったら新○くん、IRONの時のように一気には出て行かない。
いや・・・・出て行けない。


一方山○くんは、下から下からあてがいながら新○くんの懐に飛び込もうとしている感じ。

あんな怪物の懐に飛び込んでどうするんだよ?

突き放し様子をうかがう新○くん。

お互いに見ため以上にスピードがある攻防。

そして体が何度か入れ替わりながら・・・・・

新○くんが山○くんをはたき落とした・・・・・・・かに見えたのだが・・・・

審判員は山○くんを指している。


良くはわからなかったが、新○くんの足が先に土俵から出てしまったようである。



小学生同士の対戦とは思えないような、素人目にはわからない精神戦。

見ているだけで疲れてしまった。



本当に、この大会・・・・とんでもない怪物達の怪物ぶりに驚いた大会であった。



IRON&アイアン父(石○県金○市卯○山相撲場にて)


           コンティニュー → 全国レベルとの対戦経験はすごい自信に



NO.75「IRON小学校高学年−40」

地元に戻ったIRON。

負けた試合であっても、全国大会の上位の実力を持つ猛者達との対戦は、少なくともそういった連中と試合をしたことのない子供に比べて得た物ははかりしれずでかい。

全国レベルの選手の実力を肌で知ったわけだから・・・・


加えて木○福島の相撲クラブでの稽古もまた地元のほかの子供達との間に、明らかな差をもたらしたのであった。


IRONの地元での相撲、初戦敗退したわんぱく相撲大会を最後に、それまでの相撲のスタイルは消え、全く別の物に変わっていた。


それを証明したのが秋の地区選抜相撲大会であった。


「東、GRIP小学校 STONFくん」  「はい」

「西、SOUTH小学校 IRONくん」  「はい!」

「礼!」という行司の先生の言葉に一礼をしながら・・・

「おねがいします!」

木○の稽古や北○越大会のとき、クラブ員たちがやっていた発声。

やれと言われるでなしIRONが初めて地元でやったのである。

ほかの選手達もつられてこの挨拶をはじめた。


行司に促されることもなくすかさず仕切り線の前へ歩み寄り、蹲踞するIRON。

相手もあわてて見習うので、実にメリハリのある動作、試合になった。

「はい構えて」

ザッと音をさせて仕切り線に両手をつくIRON。

「はっけよ〜い〜のこった〜」

素早く立ち上がったIRON、

STONFくんに両手突き一発、二発で土俵の外に吹っ飛ばした。

(自分がやられた新○の真似かよ〜!)




           コンティニュー → 腰の構えの低さ、スピード



NO.76「IRON小学校高学年−41」

2回戦の相手はWEALTHくん。

昨年のわんぱくの借りを返す絶好のチャンス・・・・と思ったら。

WEALTHくん、大会にエントリーしただけで・・・・欠席!

半分残念!半分ホッ!・・・の不戦勝。

3回戦はPINB小学校のGOOくん。

GOOくんには悪いが、その小学校5年生らしい体では、今のIRONデブには通じないぜ!


「東、PINB小学校、GOOくん。」「はい」

「西、SOUTH小学校、IRONくん。」
「はい。」

「お互いに・・・礼!」
 

「お願いします!!!」

土俵中央に即座に向かい蹲踞するIRON。

「はい立って〜」

仕切り線に両手をついて構えるIRON

対してGOOくん仕切り線に手をつきながら、右足を後ろにずらしながら突っ込む準備。

「はっけよ〜い〜のこった〜」

GOOくんが低く突っ込む〜。

IRONはGOOくんの両肘あたりに手をおっつけ、いったん受け止めた。

瞬時にGOOくんの力量を見抜いたIRON、一気に寄ってでて土俵際まで持って行ったところで腰を低くしてドンとつきだした。


まわりで見ていたギャラリーの父兄が「うわ〜強いなあ〜」

(・・・地区大会ですからねえ・・・・この程度は・・・当然でしょう。)

本当に・・・本当に経験というものは財産だ。まして上の大会がかかっているわけではない秋の大会は見ている方も気楽。本人はもっとお気楽。

決勝戦は、やっぱりあがってきましたね宿命のライバルRICHくん。



           コンティニュー → ある意味名勝負



NO.77「IRON小学校高学年−42」

この大会では、唯一?骨のある相手となったRICHくん。

準決勝ではずんぐりむっくりを仕留めてきた。

IRONはずんぐりむっくりにもリベンジのチャンスを逸したわけだ。

決勝戦でのRICHくんとIRON。

やっぱりこの二人の対戦でないと地区大会は絵にならない。

「東、CHECKM小学校、RICHくん」「はい!」

「西、SOUTH小学校、IRONくん」
「はい!」


「礼」 「お願いします!!」

前の2試合と違うすごい気合い。

まわりも・・・・・

「IRON!きっちりいけよ〜!」(大会の中で知り合ったギャラリー父兄)

「勝つ気で行けよ!勝つ気で!」(RICHくんの応援団)


蹲踞で対峙する二人・・・・・やっぱ絵になる・・・かな?


「はいたって〜はっけよ〜い〜〜のこった」


さあ立ち会い・・・バチーン!!


立ち会いは互角!ものすごい前傾の姿勢のRICHくんに対してIRONは・・・

・・・・・あの・・・・あの稽古の時の・・・・
すり足稽古の時の・・腰の構えだ!?!?


           コンティニュー → 腰の構え



NO.78「IRON小学校高学年−43」

前傾姿勢で押してくるRICHくんに対してIRONは・・・・あのすり足の稽古よろしく・・・

膝を直角に曲げ、どっしり腰を落とした格好で、RICHくんの肘に手のひらをあてがい、跳ね上げ跳ね上げ・・・じりっじりっと出て行く。



そして・・・RICHくんの肘が伸びきった瞬間であった。

RICHくんの左腕の肘を右手で跳ね上げながら、左に体を大きく開いた。

つっかい棒がはずれたようにRICHくんの伸びた体はIRONの肩か背中あたりを支点に、弧を描きながらIRONの後方に背中から落ちた。

突き落としというには、あまりに豪快な決まり方。

なぜRICHくんが一回転したのかわからないような・・・

まるでカブトムシが相手をはねとばした時のような不思議な技であった。

RICHくんを押し出すことはできなかったものの、前へ出る圧力が産み出した結果・・・よしとするか。

秋の大会3連覇の瞬間、この地区(地元)においてのIRON復活の瞬間でもあった。

応援してくれたギャラリー父兄に対してアイアン父からも・・・

「ありがとうございました!」

RICHくんのご両親も、笑顔で祝福してくれている。

なんと素晴らしいご家族か。


そして・・「来年はお互いに最後の大会・・・・また決勝で逢えるようがんばりましょう。」

お互いそう言って大会を終えたのであった。

そうこの言葉・・・けして夢ではないほど・・・いつのまにやら、この二人の実力はこの地区では抜け出ていた・・・・・それを証明したのは・・・・また後のお話。



           コンティニュー → 泣いても笑っても



NO.79「IRON小学校高学年−44」

IRONは、小学生最後の春を迎えていた。

そう、最高学年の春である。

そして、この年はトラブルもなく、地区わんぱく相撲大会の日を迎えることが出来た。

しかも、この年の地区わんぱく相撲大会は節目を迎える記念大会。

元大相撲力士をゲストに迎えて記念講演会も開かれるということもあって、参加選手数は過去最多と言われる大会となっていた。

会場もその都合から運動公園ではなく小学校の体育館になっていた。


会場に乗り込んだIRONとアイアン父は、早速、四股ふみ、すり足、ぶつかり稽古をこなしていく。

前述のようにこの地区では、本格的な相撲競技というものを行っている場所がない。

従って、IRONとアイアン父のやっていることは、まわりにはとても不思議な光景に映るわけである。

近くにやってきたSUGARくん。

何とも言えない表情で私たちをず〜っと見ている。

ぶつかり稽古が終わったあたりから、会場もかなりにぎやかになってきた。

相撲大会の常連達が次々と会場入りしてくる。

IRONのまわりはたちまち人だかりとなる。

「I・R・O・N〜!」

IRONに飛びついて首の上までさしかかえられているのはWEALTHくんである。

そうディフェンディングチャンピオン。

IRONの調子をついでに調査・・・・といったところか?

そして、ずんぐりむっくりも親子でやってきた。

(なんだこいつ!去年うちの息子に負けたくせに・・・・でかい態度でいやがる。)

きっとそう思っていたんだろうな。

だから去年は怪我してたんだって!・・・・ってわざわざいう必要もないよな・・・・こんな奴ら。


柔道での顔見知り少年達もいっぱいやってきてIRONに張り付く・・・なんじゃこりゃ。


アイアン父には、職場の同僚が声を掛ける。

「あれ?アイアン父さんどうしたの?」

「いや、息子が選手で出るんだよ。」

「そうなんですか。うちも娘が試合に出るっていうんで連れてきたんですよ。」

(・・さては・・・・・この大会・・・・初めてだな・・・・おまえ!)

「どうですか息子さんの調子は・・・勝てそうですか?(「一回くらいは。」のニュアンスだろうな)

「初戦さえ突破すりゃ・・・・行けると思う。」

「・・・???(行ける???何のことだ???・・・まさか???)・・・行けるって・・・?優勝するっていうことですかああ・・・」

「うん」

え〜! すごいですねえ・・・(きっと心は「何たいそうなこと言ってんだ・・・この親父は・・・」)

「お宅は何回目の出場なんだい?」

「え〜初めてですよ。ほら、今日は○の海さんが講演に来るっていうからついでに試合も出させたんですよ。」

(やっぱりな!・・・やっぱりついでかよ!)



           コンティニュー → 高まる緊張



NO.80「IRON小学校高学年−45」

3年生の春に優勝して・・・・スタッフさんにかけてもらった言葉・・・・


「・・・来年は優勝して、国技館に行けるね・・・」


この言葉・・・・その重みを・・・・その時は・・・・何気なく飲み込んだアイアン父!

でも・・・それからずっと・・・・この言葉を・・・この言葉だけを目標に・・・やってきた。

すごく重いのです。


試合開始が近づくにつれ・・・アイアン父母は、徐々に徐々に・・・・緊張が高まっていく。

そして、6年生の第1試合が始まる頃には、手に震えまで来ていた。

なぜって・・・・



相撲は柔道や水泳と違って、勝負が一瞬で決まってしまうことが多い。

一生懸命練習してきた選手が、いい加減にやってきた選手に・・・・・

実力のあるはずの選手が、弱いはずの選手に・・・負けてしまう・・・・

そんな理不尽な事が当たり前に起きてしまう競技なのです。

専門家から見ればそんなことはないと言う人もいるのでしょうが、一つの失敗が命取りとなり、特にわんぱくは、一回失敗して負けてしまえば・・・・ちょっと手を付いただけで一年間が終わり。

柔道は投げられても、一本でなければ逆転勝ちも出来る、水泳だって失格にさえならなければ逆転が出来る。

でも・・・・相撲はそれが許されない。

だから、負けたら一生国技館には行けない。

それこそ、IRONに将来お嫁さんが来て、運良く男の子を産んでくれて、その子供がIRON並みの相撲の強さを持って地区大会で優勝するなんて天文学的低確率を期待するしかない。

もう、負けは許されない。しかも昨年と違って、今のIRONには、4年時横綱FIELDくんと5年時横綱WEALTHくんの国技館経験者以外には、経験面でもひけをとる選手はいないはず。

優勝はやってやれない事はない状況は、ますます緊張感を高め、吐き気がしそうなくらいになってきた。


IRONの初戦の相手はと冊子を見ると、STONFくんと初出場の選手の対戦の勝者。

しめた・・・・相撲っぷりを観察できる。




           コンティニュー → 未知の強豪?TIMEくん。