『小宮と滝沢』








21







2年になってすぐ、滝沢と喧嘩した。



放課後、課題を研究室に出し終え教室に戻る途中

クラスメイトが3年生に囲まれていたのを、素通りしてきたのを知って、怒って走って行った。


囲まれてたのは、クラスで普段から騒ぎ散らかし、気弱な生徒をからかい、2年になった途端にスカートをかなり短くしてきた奴だった。


自業自得か、と、そのまま通りすぎてきたんだけど。



‥‥。


なんて、声をかければよかった?
助けて、そのあとは?

騒がれるのは嫌だ。
逃げたいなら、自分で逃げる方法を考えればいい。

お礼を言われるのだって嫌だ。


第一、

自分すら逃げ出せないのに、どうやって他人を助ける?




‥‥滝沢は、なんて言ったんだろう。

なんて、言ってたっけ





とぼとぼとさっきの場所に戻る。

がらんどうの廊下。
遠くで響く野球部の声。
足下を流れる冷たい風。

どこにいったのかな。
立ち止まっていると、ケータイが揺れた。

カチリと画面を開き、メールを出す。


『先に帰ってて』


今は5時半。

6時の電車に乗らないと、
母親が帰って来るのに間に合わない。



なにか言った方がいいのか
なにを言ったらいいのか




そのまま教室に戻り、カバンを取って、駅に向かう。

電車に乗り、二両目の後ろから、遠ざかる線路を眺める。


家に着き、念のためリビングの勤務表とお知らせボードを確認してから、玄関の靴を袋に入れ
直ぐに2階の自室に上がり、荷物を置きサンダルと上着を出しておく。

制服を脱ぎシャワーを浴び換気をしてジャージに着替え、100円引きの中華弁当をかきこみトイレを済ませ換気を切り家中の電気を切り布団に潜る。


8時、十分前。

間に合った。


布団の温度が上がり始めた頃、ガチャリと玄関が開いた。


毎日の繰り返し。
今までの経験から、積み重ねてきた生活。


下の部屋から音がしなくなる0時まで、ひたすら音を殺して目を瞑る。


1時になると静まりかえった暗闇を忍び足で歩き、部屋の横のトイレへ行き流さず出て眠る。

朝5時に起き着替えトイレを流すと、気付かれる前に玄関に向かい外に出る。



冷たい風が、身体中を突き刺す。



なにを、

何をどう謝ればいいのか、

そもそも謝る必要があるのか、


自分の中で 何も無い自分の中で、



どうやって答えを探せばいいのか、わからなかった。











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