『小宮と滝沢』








22







小宮に怒鳴った後聞いた場所に行くと、川西さんが4人の3年生に囲まれていた。



「川西さん!良かったー」


息を切らせて近づくと、5人の不審の目がこっちを向く。

「橋口先生が探してるんだけど、‥‥部活の先輩?えと‥まだかかります?」

気にせず話しかけると、4人は顔を歪ませ「別に、もう終わった」と囲んでいた輪を崩した。


「川西、明日までに直せよ」と強い口調を投げると、ゆったりとした足取りで去って行った。




「以外とあっさり行ったな‥」

先生なんて呼んで無いと気付いた彼女は、壁に背中を預け溜め息をつく。

「‥そりゃ、あんたみたいな優等生が汗だくで走ってくりゃ‥‥」
「怪我は?」
「無いよ。ありがと」

川西さんは短いスカートを風で揺らしながら、さっきより大きな溜め息をついた。

「髪の色くらいでバッカみたい」

明るい茶色に染められた髪は、きれいにウェーブして肩に乗っている。

「髪の色で何が変わるのかな」
「は?イヤミ?」
「そうじゃなくて」


何て言ったらいいかな


「髪が黒くても嫌な人はいっぱいいるし、ただ似合うかどうかじゃ駄目なのかなって」

川西さんはさっき『優等生』って言ってたけど、つまりそれは見た目の話だ。

「ああやっていじめしてる人は、どんな格好でも見てて嫌だな」
「‥‥ふーん」

川西さんはさっき先輩達が去って行った方をちらっと見て、そっちに背を向けて歩き出した。

教室の方へ向かってるのかな。
どのみち教室に鞄を取りに行くから、川西さんの少し後ろをついていく。


小宮は、今どこにいるんだろう。

3秒程考えて、とりあえずメールを入れておく。
今は何て言ったらいいのかわからない。


「明日直さなかったらどうなると思う」

突然話しかけられ、ケータイを慌ててポケットにしまう。
眉を寄せてこっちを見る目。


えーと、えー‥‥。


「また呼び出される‥‥?」


‥‥はー‥と長い溜め息をついて、川西さんはまた歩き出す。

「ごめん、あの、あの人達の考えとかわからなくて」
「ああ‥‥うん、だろーね」
「部活の先輩?」
「そう。って言っても活動なんてしてないけど」

「小宮なら」


小宮なら、


「自分で考えろって言いそう」

きっと。


「‥‥確かに」

川西さんはふっと笑って、教室に入って行った。


外を春風が走り抜けてる。
雲の流れも早い。

教室からは、川西さんとその友達の賑やかな声。
さっきまでの出来事なんて無かったかのような。



まとまらない頭を静めたい。

緩く早い鼓動を抑えたい。



鞄を取り彼女達の方を一瞥してから、屋上へと向かった。








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