飯田地方の魅力はまず何より「水引の里」である事です。飯田地方は、日本人の「縁(えにし)の故郷」と言っても差し支えないでしょう。なぜなら江戸中頃過ぎから明治・大正、昭和・平成の間ずっと日本中の冠婚葬祭の場において「飯田で作られ、飯田の人の手によって編まれた水引」が使われてきたと推定できるからです。


 水引および水引細工は、金沢・愛媛・飯田の三産地でほとんど全部生産され、其のうち金沢さんは、格式を重んじ、地域に根ざした文化として確立しており、其の外の地域の分を生産している量は僅かであると伝え聞いております。また愛媛さんは水引の原料生産の本場で、飯田の水引・元結も愛媛さんのお世話になっておりますが、熨斗袋ほか、金封、結納飾りの生産が飯田程盛んであるとは伺っておりません。少し(かなり)こじつけっぽいのですが、あながち間違った話ではないと言えます。


 飯田地方の土地は、標高の高い順に 切り立った山脈・針葉樹ばかりの峰々と落葉樹交じりの山腹を持つ山が並ぶ山地・複合しつつなだらかな斜面を形成する扇状地・階段状の丘が並ぶ段丘・こじんまりした「隠れ谷」のそこに細長く広がる谷底平野・天竜川沿いの氾濫原、と言う区別ができます。
 水引・元結産業が発達した江戸時代、山地では楮・三椏を栽培し、湧き水の出る扇状地の扇端と扇頂にあたる集落で紙が漉かれ、日当たりのよい南向きの段丘で元結・水引の「より・かけはざ・こき」といわれる製造の最終作業が行われていたと伝え聞いております。水引の里になるためのあらゆる自然的要素があって水引の里に成ったのだと思えます。


 江戸時代水を得る事が困難で「狐の出るのっぱら」であったと言う「扇状地のなだらかな斜面」は現在は住宅地と果樹園がひろがり、当時から稲作に用いられていた谷底平野と氾濫原は今も水田が広がっています。また当時から柿を植え、梅を植えてどうにかこうにか農地として活用していた急斜面は、現在も柿と梅の栽培に用いられています。



 飯田地方は、「人と自然の波打ち際」と表現できると考えています。今も隆起し続ける赤石山脈のパワーが、人の営みを軽く凌ぎ、山も川も「人工的な所作」に対して、穏やかに諭すように手直しをし、人が川をコンクリートで固めてしまい、虫も蟹も魚も棲めなくしても、十年も経てば川底をえぐり、川岸を崩して、蟹や魚たちを呼び戻してしまっています。また時としては恐ろしく激しく叱り付け、すべきでなかったと判断された「人の都合の産物」を木っ端微塵に砕き去ります。でも、人は人で、都会の人からは信じがたいような場所でも生活し、自然に諭され叱られつつも自然を愛し、自然に食い込んでは押し戻されしています。


 そんな若々しく力強い自然につつまれた日々の暮らしの中、日本中の冠婚葬祭等、人の心と心を結びつける行事で用いられる水引細工が、ざっと二百年は編み続けられているのが「水引の里飯田」の魅力だと思います。主に内職で生産される水引細工は、飯田の複雑に入り組んだ隠れ谷や段丘と言った特異な景色の中に根を張り、何気なく、けれども強く存在を漂わせています。飯田地方にきたなら、その景色の中に、ありふれた暮らしと共に代々受け継がれてきた手技が溶け込んでいるという事を思ってみてください。自然の要素が持つ暖かさと、人間の心情が織り成す景色が飯田にはあるのです。
 今日冠婚葬祭における習慣も価値観の多様化によって変化し、水引細工は「観光資源」としての側面を強めてきております。飯田地方は必見と言える旧所名跡があるわけでなく、天竜峡を除けば名勝と言えるものもありません。しかし水引細工はやはり希少価値のある「オリジナリティ」で、確かに誇れるものです。


 観光業に関わっていれば自然わかることですが、京都の五重塔の置物も、東京の東京タワーの置物も、同じ会社が同じ工場で作っていたりするものです。ご当地ものとして売られているお菓子、おもちゃは、基本的に当地の生産物ではないでしょう。観光地向けの物産は、大体業者が決まっていて、どこの観光地も似たような業者に生産してもらった製品を並べているわけです(事実私共もお世話にもなっていないわけではないですし)。お客様のニーズにこたえるために成り立ってきたシステムでもあり、その事の良し悪しはわかりませんが、お土産は、その土地で産まれたものがうれしいはずです。
 飯田などよりずっとメジャーな観光地でもお土産を買おうと思い店に入ると、なじみの業者さんの製品が並んでいたりします。また奈良での友人の経験として、「かきくえば かねがなるなり ほうりゅうじ」と書かれたシールがはられた干し柿が売っていたので、なに?伊那谷の将軍家献上の由緒もある「市田柿」とどっちがうめえか比べてやろう。と思い、買って持ち帰り食べ比べをしたところ うーーんどっちもうめえなあ・・そこまでは良かったのですが、食べ終わって入っていたケースの裏を見たら産地の所に「長野県 市田 」といった文字が・・・
 そんなこともあり、本当にその地で産まれたものを売っている観光地であると言うだけで結構珍しく価値があると思います。ただ、時勢というものもあり、中国なら人件費が安いからといって、中国に工場を立て土産物の水引細工を安く大量生産したという所もあり(今もやってるかはわからないのですが)、一応お勧めできる水引関係の観光施設としては、間違いなく飯田産製品と言える私どもと、関係の内職生産者の方々の作った製品を並べている所だけをお勧めします。


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飯田 自然 水引 魅力

      飯田地方の魅力・見所

背景は晴れた夏の空です。