水引のアルゴリズム

  基本的な技術は「淡路結び」と「三つ編み」

 基本的に、水引で行う造形は「淡路結び」を代表とする結びと、「三つ編み」を代表とする編みで行うのですが、そのどちらもがねじれを与えた水引同士の反発しあう力を利用するために、開始の時点での交差がどうしても必要となります。そこから水引独特のアルゴリズムが
生じるのであります。
 まず、結びの基本でありますが結びとは基本的には「輪を作ってそこを内から外もしくは外から内にくぐらせてひっぱる」作業で、ひとつの紐で行う場合と二つの紐で行う場合で内容が少し異なり、二つの紐で行う際にはそれぞれの紐で輪を作り、それぞれの紐の両端同士を対象の位置にくるように交差させてくぐらせます。
 さらに、結びを平面的な帯状のもの、いわゆるリボン的な形で行うとなると、結び目をただきつくすればいいと言うものではなくなります。並びを崩すことなく、隣りあう水引同士が同じ平面を構成している状態を保ちつつ成立する造形が求められるのです。そしてその最小基本構造が淡路結びと三つ編みなのです。
 淡路結びにおいて特徴的なことは、結びを構成するために一度輪を作り、そこからすぐに外側から内側へ抜くのではなく、輪の上をすべらせてもう一つ輪を作り、それから、一つ目の輪を作る際の始点を形成しているほうの水引の下をくぐり、上下に重なった輪を形成する水引の、上にあって下を通る水引から見て浮いている水引を押さえつけるように上に通し、下にあってしづんでいるほうの水引を持ち上げるようにしてその下をくぐり、を二度行うのです。
 言葉で書くと物凄くややこしいのですが、実際見ていただければあっけないです。輪を上下すれ違いに作り、長く伸びてるほうの端を、輪になっている水引のうち上を通っているやつの上を通して、下を通ってるやつの下にとおしてと、様は裁縫で行うところの「縫う」感じで通す。だけです。
 けれどもこの上下にすれ違いの輪を作り、すれ違っている同士を縫うように上下上下と通す。これが水引の編みのすべてを貫く原理なのです。
 結びでの原理がこの上下上下のでありますから、水引での表現は常に始点が左右のどちらであったかによって右ねじれか左ねじれであることを避けられません。そして全体としてはそのねじれ同士がバランスを取り合って美しい造形になるよう仕上げるのです。当然ですが体で把握した確固たる感覚が必要であります。
 
 さて、編みの基本三つ編みですが、これもまた上から通したやつは次は下、の連続です。またこの原則は四つ編みになっても、五つ編みになっても、変わりません。こちらでも当然出来上がったものにねじれがあることは同じで、そのねじれ同士でバランスを形成することで調和の美を作り上げることが水引細工の命題であると言えましょう。
 また、どちらの場合においても、水引の寸法の制限、水引の非伸縮性の制限を受けつつの作業と成りまして、出来上がりの姿がはっきりと頭に浮かぶように成るにはかなりの経験と修練が必要になってしまいます。

 また、基本が縁起物であるために、アートという言葉が適応される種類の作品以外では、縁起の悪い本数(主に四・二・六と言った偶数と九)を使用が認められないことが多く、七or五or三本での使用が普通であります。これもまた造形を難しくしている要素であります。
 
 しかし造形を難しくしている要素は、裏を返せば独特の表現様式を形成している要素であります。ですから、しっかりとその性質を把握してくると、いろいろな表現を「楽しんで」できるようになる、「うちこみがいのある」素材でもあります。

 次へ    表紙へ