水引の科学 

 和紙から生まれる水引 和紙の科学とは

 水引にも、その存在を支える科学的な作用があります。出来上がり、結びあがった水引からはちょっと思いつかないであろう水引の背後にある化学について、頑張って科学してみます。
 さて、水引は歴史的に「和紙」をその根本的な素材としております。さて皆さんは和紙と洋紙の決定的違いは何であるとお考えでしょうか?書く言う私も単に素材の違いと考えておりましたが、ネットをするようになり、水引とは深い縁のある和紙についてネット上で当然調べました。そして、和紙の本場中の本場、「越前」の和紙屋さん「杉原商店」様のページ内の質問コーナーで和紙と洋紙の決定的な違いを知ったのでした。
 さて、その決定的な違いは、繊維同士の結合の仕方で、和紙の場合繊維同士は「水素結合」と言う結合で結びついており、洋紙の場合は「糊」によって結合させられているのであります。
 洋紙は、植物の繊維を徹底的に断裁し粉にしてしまい、それを糊とともに練り、均一な厚さに伸ばし、さらに均質な表面になるよう擦って作り上げる紙であります。
 一方で和紙は、植物の繊維をほぐす様にして長いままの状態のものを、繊維同士の絡みをより良くするため「ネリ」と呼ばれるトロロアオイなどの植物の粘液を混ぜた水の中で「漉」いて、繊維同士の絡みつきで結合させて作る紙であります。
 さらに、この「繊維同士の絡みつき」の内容がまた奥深いのです。植物繊維の最小単位である「セルロース」は、無数のブドウ糖の連鎖ですが、ブドウ糖の化学式「C6H12O6」の分子構造の都合で、セルロース繊維は常に電気的に不安定なO‐Hの腕が伸びている状態にあるのです。
 さて、元素同士の化学反応の主たる原因である電気的な安定不安定で言うとH2Oの形で、電気的に+1である水素二つと、電気的に−2である酸素で結合してしまえば安定するわけなので、水中に置かれたセルロースは、水分子の水素や酸素と触れてH2O状態に近い形で電気的に安定しているのですが、水中で複雑に絡まりあった状態のセルロースがそのままの形で水から上げられ、だんだんと水が蒸発して無くなっていくと、水分子の酸素や水素を頼れなくなるので、近くにあるセルロースのH-O腕の水素や酸素を頼って電気的安定を確立するため、絡み合っただけでなく、分子単位・元素単位の部分出までお互いを引っ張り合うのだそうです。(完全文型人間な筆者ですのでわかり難くかつあまり正確でなくてすみませんが、参照もとをリンクしておきますので許してやってください・・・)

 水引も、和紙を水と、海草から取った糊で湿らせた上で縒り(より)、しごきいて作られているのですが、ひも状の形を形成する上でどうしても水の存在がかかせず、また、乾いたあとばらけず形が保たれるのは、そもそも其の根本素材である「和紙」が持つ得意な結合形式のためであったと、水引を触って二十年目くらいではじめて知った私であります。
 水引細工をする上でも、時として「糊抜き」をして行う作業もありますが、糊を落としてもさほど弾力が失われず、また、なぜか「作り上げた形が崩れずに決まってくれる」のは、経験的に知ってはおりましたが、其の背景にある化学に触れたときはやはり感動したものです。
 水引に糊付けするのは、ひとつには色や、巻きつける絹糸やポリエステルフィルム等の素材を固定するためであり、もうひとつには和紙の弾力だけでは保てない分の弾力を与えるためだと思われます。
 水引は素直に曲がり、コツはいりますが、上手にあつかえばさまざまな造形に耐える素材であります。水引の扱いにおいてもっとも難しいのは、糊を粉々にしないように曲げることであります。
 糊という素材の科学的な性質はまだまだ勉強不足できちんとしたことが書けないのですが、経験的に知っている糊の性質を表現すると「上手く曲げれば曲げたときの形で固まりなおしてくれる」です。但し、曲げる回数には制限があり、つまり一度限りであります。「水引細工は間違いが許されない細工で、一度間違えたら其の水引はもう使えない」といった話を聞いたことのある方もあるでしょうが、それは水引を構成する中の「糊」の性質によるもので、本当の話なのです。
 水引は、和紙の水素結合と、糊の持つ性質によって「針金と、紐の間」の微妙なしなやかさと強靭さを併せ持つ工芸素材となるのだと言えましょう。
 糊の性質について詳しい方で、この頁を読んだ方がいらっしゃったら、是非糊の化学的性質を教えて下さい。特に水引に使っている「つのまた糊」について詳しい方よろしくお願いします。

 次の水引のアルゴリズムへ      表紙へ      

  越前和紙「杉原商店」様水素結合の話は、表紙の下のほうにある「和紙の質問箱」コーナーの最初のほうにありました。