虫と家紋

 家紋に採用されている虫は、大変少ないのですが、女性からの支持率ナンバーワンで、全体の人気でもトップテンに必ず入るといわれる「揚げ羽蝶」があります。他にはトンボが約三種類ほどと、蝉が三種類ほどあるだけで、蟲では「百足」があるくらいです。
 どうも虫は紋章向きではないようです。
 さて、「揚げ羽蝶」は、桓武平氏の代表紋とされておりますが、桓武平氏のような武家平氏のみならず、公家平氏の紋でもあり、その流れを汲む一族に広く用いられているそうです。
 紋章とされる以前から、模様としての使用は古く正倉院所蔵の御物にも見られるそうです。
 蜻蛉の紋は、武士団のなかでも最古参の歴史を誇るといわれる「武蔵七党」の「村山党」の金子氏が用いたとされています。蜻蛉は、勇猛果敢で勝負強い虫として古来より「勝ち虫」と称されてきたそうで、由緒もあって、歴史もある「蜻蛉」の紋章なのですが、なぜかマイナーな存在であります。格好は下の絵のような格好です。








 蝉の紋章は、「蝉の揚げ羽」があるといわれておりますが、使用家・由来共に不明とされている紋であり、やはり大変マイナーであります。揚げ羽蝉の推定画像が本にあったので、それを元に書き起こして背景画像にしてみましたが、確かに見慣れない格好であります。古代中国では、露を飲んでいき、物を食べない蝉は高潔な生き物であると考えられ、その姿が貴人の冠の装飾に用いられ、そうした皇帝などが用いる冠を「蝉冠」と称したそうですが、どうも紋章向きではないようです。
 
 百足紋は、紋章というより文様としての役目で用いられることが普通とされ、たとえば戦場での使者は百足の描かれた旗を立てて陣中を進んだそうですが、これは、軍神毘沙門天の使いが百足であるという信仰から出た話といわれておりますし、歌舞伎俳優や、商家では、「出足」が多いことを望んで、出足の多さと「むかでの百足」を掛けて縁起物として百足紋を使用することがあるといった具合であります。
 
 どうやら、蟲は紋章・家紋には向いていないという結論であると言わざるを得ません。
 
 さて、めげずに、紋章以外の伝統文化と虫の話に行きましょう。
 
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