水引 飯田 家紋 観光 宿泊 温泉

 ここまで隠れ谷の魅力について長々と書き連ねてまいりましたが、観光で飯田地方にお越しいただいたく方々が、隠れ谷を楽しめるよう、以下に「隠れ谷に建つ観光施設」を紹介致します。


        「湯元久米川温泉」様
 久米川と言う川が、幾つかの小さな隠れ谷を刻みながら流れくだり、さらに小さな流れが刻んだ谷をあわせて、ちょうど見晴らしの良い広さの隠れ谷を形作るのですが、その広い隠れ谷の奥まった所に立つ温泉旅館が「久米川」様です。
 建物のすぐ前の川に沿う小さな道をくだって行くと、谷の詰まりを抜け、次の隠れ谷に抜けます。また、川の上流方向へ行くと広々とした田んぼが広がり、入り口も出口も崖で区切られた隠れ谷の姿が見渡せる場所に出ます。
 お勧めは秋・冬・春でしょうか、地元に住んでいるもので、散歩ついでに入浴した事はあり、良い温泉であると進める事はできますが、宿泊した事はないです。
 秋、川下の隠れ谷は軒から柿が吊るされる「柿簾」の眺めが素晴らしく、また川上の谷では、秋の虫達の合唱や、トンボの群れ飛ぶ様を見ることができるでしょう。紅葉にせよ、虫の声にせよ柿簾にせよなぜか懐かしく心に沁みてきます。朝の霧に包まれた景色、夕暮れの素晴らしさには、言葉が見つかりません。晴れた日を当てる運が有ると最高です。
 冬の静かで寒々とした様は、詫び寂の世界でしょうか、霧や、もやも多く、また雪の日もあり、視界全てが「白と黒」な、水墨画のような景色を見ることもあります。そんな風情が好きは人には冬がお勧めです。
 春から初夏にかけては、真新しい木々の緑と草花のさわやかな眺めが見られます。田畑の美しく手入れされた様と相まって、何か朗らかな気持ちになることでしょう。雨が多いのが少し残念な所でしょうか。


       「不動温泉佐和屋」
 あらかじめ申し上げておきますと、私はこの温泉に入った事も無く、宿泊したこともございません。めぐり合わせが悪いと言うかなんというか、機会はあったのですがその日自分だけ都合がつかなかったとか、体調を崩したとかで、家族の他の人は行ったのに自分は行けなかったのです。
 では、なぜ推薦できるのかと言えば、私はあくまで観光でいらっしゃった方に楽しめる「隠れ谷」を紹介すると言うコンセプトで観光施設を選択しているからです。この温泉がある「千代」という場所は、飯田市内における「隠れ谷の中の隠れ谷」なのです。標高は市街地よりも百五十メートルほど高く海抜七百メートル前後で、夏も割合に過し易く、また谷の中に入ってしまえば谷底平野が広いので、歩きやすく、谷を刻む川の水が大変綺麗なため、他の飯田市内ではもう見る事がほとんど不可能な「かじか蛙」がごくありふれた存在として生息しているのです。


 また日本の棚田百選に選ばれた棚田「よこね田んぼ」もあり、とうとう絶滅が危惧される所まで来てしまった「メダカ」が自然繁殖している場所もあります。ごく最近になってその価値を評価されるようになった「里山」という自然と人間の調和状態がずっと守られてきていて、今も変わらず生き生きとしている貴重な場所だと思います。
 私などはその眺めに惹かれるあまり、家から遠いにもかかわらず遠出しては何度も歩き回ったほどです。天竜川の東岸は、天竜川沿いに氾濫原が広がらずに切り立った崖になるのですが、崖一段を上った高地にある幾つかの隠れ谷の一つです。


都市生活者から見れば飯田はどこも山奥で田舎であると思うのですが、飯田の人にとっても例えば千代や、遠山郷・大鹿村は田舎(秘境)なのです。アクセス的にも千代辺りまでなら大丈夫そうなので一押しとして推薦します。


   最後に、谷を歩く楽しみ方みたいなことを少し。

水田について

 谷底は基本的に水田ですが、水田と言うものは畦道、水路まで含めて一つの作品です。畦には、畦が崩れないように「土縛り」と呼ばれる植物が植えられています。植えられていると言うよりはそう言った植物を残して刈り込んでいるといった感じで、例を揚げると「彼岸花」「草ぼけ」が主で、南向きの畦では「茶」が植えられていた場合もあったようです。強く根を張り、しかも土の上の部分は稲の邪魔にならない植物が選ばれたと言う事です。特に彼岸花は毒草で、その毒が「畦にモグラとかがが入るのを防いでくれる」のだそうです。また、その根からでんぷんが取れるので飢饉の際の栄養源としての役目もあったとも聞いています。


 畦は田んぼの養分を吸い込むため、役に立たない草が生えていても、もったいないのだそうで、夏の間畦に大豆や落花生を植えていたお百姓さんも多くいました。また、よもぎだの、蕨だの、のびる(このあたりではノノヒル)だのと言った「美味しくて食べられる草」を優先的に残しながら除草しています。われもこうや、りんどうといった綺麗な野草も、わざわざ残してあげています。
 このように、畦道は、とてもたくさんの手間と時間をかけて作られ維持されている作品です。気軽に立ち入るとお百姓さんに怒鳴られる事があります(私も子供の頃は、しょっちゅう怒鳴られました)。気をつけましょう。


 また、そこにある植物もやはり手間と暇をかけてそこにあるものなので、断りもなしに採取すると言った事は決してしてはいけません。軍手をして袋を持ってうろつけば「泥棒」と思われてしまうので、決してそのような格好で散歩をしないようにしましょう。お百姓さんに出会ったなら、ちゃんと挨拶をして「ただ景色を見ているだけだと、こういう景色が珍しい、もしくはこういう景色を見るのが好きだ」ということを伝えることが大切です。また、作業の邪魔になるといけないので、長々とあれこれ尋ねるのもいけないと思います。


 水路は、かつては泥鰌、フナ等といった蛋白源の供給元という機能があったようですが、今はコンクリートのU字溝が多く、魚達の産卵場にならなくなってしまいました。また、蛍、ゲンゴロウ、ミズカマキリほか、水に縁のある昆虫達も減ってしまっています。それでも谷の水田には石組みで、砂底の水路が比較的に残っているので、まったくいなくなったと言うほどの事は無いです。私が釣りをしないこともあって釣りの事は判らないのですが、谷には釣りをするほどの規模の水路は無く、子供の自分は手づかみでとっていました(漁業権とかの知識が無かった頃の事です)。
 当然ですが、水田の給水のための施設です。そっと見るくらいにして、間違っても石組みを崩すようなことは避けてあげてください。


崖について

 崖は、見た目以上に角度がきつく、また崩れやすい場所もありますから、道の無い所へ入っていかないよう気をつけてください。自分自身の若気の至りの話でありますが、崖を強行突破しようとして滑り落ち、斜面にあった窪みに手をかけて止まろうとしたら、その窪みにオオスズメバチの巣があり・・・全身を刺されると言う目にあったことがあります。正直死ぬ寸前まで行きましたが、運良く九死に一生を得ました。
 斜面の窪みはタヌキやハクビシンたちの巣穴にもなり、鳥達も巣を作るので興味深くはあるのですが、何しろマムシもスズメバチもいます。彼らの寝ている冬は、氷柱と凍み雪と霜柱だらけでやはり危険です。道の無い所には入らないよう気をつけてください。
 また、山菜の季節、つまり「たらの芽」・「うど」の春と、「きのこ」の秋は軍手をして長袖の汚れてもいい服を着て歩いていると「山菜泥棒」と思われるので注意。
 そうそう、たとえ見つけても取らないように気をつけて下さい。山菜は意外と誰でも見つけられるのですが、目に付くような所にあるものは大抵持ち主がいます。よく見れば、人の敷地であると言う表示がなされています。また、「止め山」と言う表示があったなら、素直に引き返しましょう。立入らないようにという警告です。自治体等に申請をして行う警告なので、秋などはパトロールが行われている事もあります。「止め山」に入ったら窃盗犯とみなされてしまいます。
 崖というほどの傾斜で無い斜面では、梅や、柿、林檎の栽培が行われています。そう言った場所での注意は、例えば、木の下に入ってカメラなど構えると遠めには盗んでいるようにしか見え無い訳ですから、「李下に冠を正さず」の言葉の通り、木の下に入っての行動は可能な限り慎みましょう。


  まとめ

 歩く際は、まず道を外れない。畦道を通らない、果樹の下に入らない。服装はあえて場違い目で、まちがっても「軍手に長袖」、地味な色の上下に「長靴」と言う格好で散歩しないこと。また、車で谷を回っても、キューブリックの映画を早送りで見るようなものなので、意味がありません必ずゆっくり歩き出回ること。何かを目当てにとか、何を見たいとか、目的意識があると却って見逃してしまうものが増えてしまうので、無心を心がけるべし。逆もまた真なり、無心になれないときにも効き目があります。最後の最後に
 散歩は冒険ではないので、安全な道を歩きましょう。


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