其の五
 女学校の必修だった水引結び
 お客様にご年配の方が多いのがこの業界であります。まるで孫を見るような目で私を見る大正生まれのお嬢様方に囲まれて、私はいまだに日々どぎまぎであります。
 こうしたお客様方が
しばしば仰るのは、「いいわねぇ、水引が結べるってほんとに素晴らしいことよ、私はぜんぜん結べなかった」といった内容のお話。どうやら水引を結んだ経験があるようなのですが、飯田の人でもないのになぜこんなに大勢の方々が水引結びの経験があるのだろうか?そんな疑問があったここ数ヶ月でありました。お客様方皆会話に非常に時間がかかるお年頃の方ばかりでして、限られた時間であることを考慮して此方から質問することはしないでいたのでしたが、先日その疑問が氷解しました。
 その日も例によって大正頃の生まれと思われるお客様がいらっしゃって、私が水引細工を作ると聞いていうには、「ほぁ、本とそれ難しいなぁ、私女学校で水引結びができんで最後まで単位とるのに苦労してなぁ、女学校じゃぁ水引結び必修やったん。どうやっても上手く結べんくてほんといまだに悔しい」とのこと。どうりで皆様ほめてくださる訳です。それにしても必修は厳しすぎると思いますが、かつての日本でどれほど水引を結ぶことが「習慣」として定着していたかを物語る史実であると思います。

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 by水心