其の六
 職人さん程褒めてくださる
 お客様にはいろいろな職業の方がいらっしゃるのでありますが、中に割合にいらっしゃるのが「職人」さんであります。職人さんの傾向として、一つには質問が多いということがありまして、家紋を作っているというと、「下絵はどうしてる?」等と聞かれることもしばしばであります。「こちらのオリジナルでして、うちの絵師が作る水引細工専用にデザインしたものです」という感じで応えて、実際の作業の手順を行って見せたり、二・三の下絵をお目にかけるなどいたしますと、「そうだろうなぁ」と仰って、ご自身の仕事になぞらえながら、私共の作業の一つ一つを理解してくださります。そしてほぼ100%褒めてくださります(御世辞六割とは思いますが何しろ嬉しいです)。これは非常の光栄なことなのですが、やはり自分の苦労に重ねて下さっているからであろうと思います。
 職人的な世界の外の人の方の場合は、ご自身にとって直接的なかかわりが無い限りは、質問の内容は費用・納期・用途・が普通で、あとは純粋な好奇心からの質問といった感じで、技術や手順についての質問はほぼありません。後は作品についての正直な感想を仰ってくださります。
 様々な職人様達と出会い、それぞれにお互いの仕事についての技術的な話をするので大変勉強になるのでありますが、特に嬉しいのはやはり伝統的な工芸の世界の人からのお褒めの言葉であります。他ジャンルの伝統的な工芸には正直コンプレックスや畏れ(恐れ)、なども感じておりますし、また逆に好奇心や憧れ、共感も沢山持っておりまして、なかなか接点が無いだけに、出会えた際にはつい話し込んでしまうこともしばしばでありまして、お店に出るようになって得えるものが大きかったなぁと感じているのはこういった出会いであります。漆器工芸、染物、織物、ろくろ木工、竹細工といったある程度普通の工芸職人さんから、御神輿作り職人、灯篭作り職人、神社仏閣の屋根葺き職人等々数え切れないほどの特殊な職人様たち(水引細工もですな)・・・日本って本当に職人のくにだなぁと思います。

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 by水心