遠山谷の方言 その一


 久しぶりに出会った人の会話。

「やあ、マ一兄い、はーるかぶりだがまめだったかえ。おらー居どころ寝で風邪ひいて、

ヒートイ寝ちまってよ、まだのどはきびしょってえし、かんだる
くてしょうねーよ」

「よー、サー公、そりゃーたいげずら。そーいやー、えーとこのなかっせいは、

へ一高校だっちゅうじゃねーか。はえーもんだえー」

「ほーよ、せーでガキどもに銭がかかるってかかあがおんじょこいとるわ」

「まー、ちっとのえーだこっぱいこくが、いっきゃむねーもんだぞ。いらんせ

んしょだかもしれんが、そんねーしんぺーするこたねえでー」

「それがよー、こねーだ山の木をまってに売ったが、ずでー安くてささらほーさらよー」

「そりゃーおめえ、へまこいたなー」

 

       *   *   *   *

 

『遠山地方の言葉は、古くは京都、伊勢地方から流入し、その影響を強く受け今日に及んでい

るが、その後水窪地方の影響を受け、さらに明治中期以降
に大量に流入してきたいわゆる王子

製紙の山林労務者の言語生活の影響を生
に受け、とくに今日も未だ残っている「悪口語」は、

それら木曽・飛騨地方出
身の山林労務者の言語の影響によるものといえよう』

(南信濃村史遠山)とあ
るように、前述の会話は、まさに「悪口語」そのものといえますが、

間違いな
く遠山の人の会話です。

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