遠山谷の方言 その二

 

「こく」

 「うそこくと頭こくぞ」などということがありますが、こくには「言う」と「たたく」二通

りの意味があります。

 つまり「嘘つくと頭をたたくぞ」ということですが、もっときつくいうときには「嘘こくと

頭こきせるぞ」といったものです。

 哭と書き泣き叫ぶこと、また叩くとか殴るという意味の使い方は古くからありますので遠

山だけの言葉ではないようです。

 似たような言葉に「くらせる」がありますが、こちらには叩くというほかに、主として

「あてる」とか「打ちつける」というときに使います。

 他にも、穀物の実をむしり取る(しごく)こともこく(またはこくる)といいます。

 

「いって」

「われは、きいねーといってなずーたいしとるなー」

「なにこく、えーこそ、でけーけつこいて、とびっくらもいつもどべばっかりでねーか」

 いっては、「同じ」という意味で、同じような体格をしているということです。

「われ・わりゃ」は相手(お前)のことで自分のことは、「わしゃー」とか「おらあ、俺」

などといいます。

何かを比べて引き分けのときには、「いってこい」とも使います。

 

「はしはし」

「わりゃー、なにやってもとろくせってーなー。ちっともはかがいかんじゃねえか、もっと

はしはししょうよ。」

 はしはしは、「手早い」といったような意味があります。

はしはしできる人のことを「はしっこい」といいますが、抜け目のない人のこともいいます。

 逆に何をやっても遅いことを「とろい」といい、気長でゆっくりなことは「おんと」とい

います。あの人はおんとな人だ、というように使います。

 手早い動作のことは「すんがけ」といいますが、こちらは「すぐに」という意味で、

「仕事に、すんがけかかる。」といったように使います。

 

「みやましい」

 「あんちゃはなにやってもみやましいなー」

兄貴はなにやっても巧みにでき
る、という意味ですが、しつかりしている人のこともいいます。

 また遠山では、親しい人を呼ぶときよく「ちゃ」をつけます。他に「ぼー(坊)」「にー

(兄)」「ねー(姉)」、見下していうときには「こう(公)」等とつ
けて呼びます。

 

「むてき」

「湿ったもやを、そんなにむてきにくべるもんで、みょー、チョーキュウ燃えんに」。

湿った小枝を、むやみに火の中に入れても、良く燃えないよ、という意味
です。

「むてき」は、無鉄砲が変化したのでしょうか、向こう見ずに行うという意味は同じです。

「くべる」は古語で「燃べる」と書き、竹取物語などにも出てきます。

 秋葉街道上の村々水窪町・天龍村・上村・大鹿村でもほとんど同じような言葉を使ってお

り、しゃっこい、ささらほうさら、あんじゃあない等も通じ
ます。

次の作品へ