正 月 の 餅

 

             お雑煮

 正月は、あらゆるものの生命を更新してくれる年神さまを迎える、一年で最大の行事です。

 そのため、すすはらいをし、注連縄(しめなわ)をつくり、門松を飾るなど、数日前から準備

を進めます。

 そして正月に食べる餅をつきますが、南信濃村では二十九日には「苦をつく」といって餅

つきをしませんが、これは全国的に普通にみられる事例です。

また三十一日は「イチヤモチ」、二十八日は「ハナモチはつかない」として餅をつかないと

ころもあります。

そのほか、「二十四日」「申の日」「己午の日」を避けるところもありますが、二十九日

に餅をついて「苦をつきつぶす」というところ(大和群山市など)もあり、うけとり次第で

違うものです。

日本全国ほとんどの地域で正月は餅を食べるものだといわれていますが、『餅なし正月』

のところもあります。それは、「正月を起点としたある期間に餅
をつかず、食べず、供えず

という禁忌を伝承している家、一族、地域のある
ころ」と定義されており、長野県では松本

以北に多く分布していますが、南
信ではほとんどみられません。

 麻積(おみ)・坂北・本城・坂井の四カ村には、「元日に雑煮を食べると腹を病む」

という伝承があり餅なし正月ですが、全国には遠い祖先が戦いに敗れて落ちのびてきたのが

正月で、餅をつくことができなかったのを忍ぶためというと
ころもあります。

 遠山地方では、三十一日の年取りにはブリと里芋・牛芳・人参・大根・糸昆布を煮たお菜

を食べ、餅は元旦に雑煮として食べるのが一般的です。

 ところで、正月に訪れる年神さまに捧げる餅は、「鏡餅など上尖り(うえとがり)の円錐形が

基本であるが、それは人の心臓の形を模したものであり、人間のタマ(霊魂)を象徴するもの」

と柳田国男は考えました。

 そして元日の朝、年神に供えたものを下ろして人がいただくのが雑煮で、そのことを直会

といいました。

 餅は、そのものに特別な霊力があるとされ、占いや儀式に用いられるなど、古くから餅文

化を創り上げられてきた日本独特なもので、大切にしたい食べ
物です。

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