遠山谷の天白信仰   そ の一

   木沢八幡神社の天伯さま


 木沢の須沢地区はわずか十九戸の小さな集落ですが、霜月祭りの行われる
宇佐八幡社をは

じめ、朝日・夕日天伯社、リケンの諏訪社、稲荷さまなどた
くさんの神社、祠、お堂があり

丁重にまつられています。

今では絶えてしまいましたが、昭和三十年ころまで『掛け踊り』も行われていたのです。

もう、踊りを覚えている人もわずかになってしまいました。

今年九月九日(現在は九月の第二日曜日)に、その須沢の夕日天伯(別名・辰巳天伯、単

に東の天伯ともいう)で例祭が行われました。社は、遠山川をは
さんで須沢の対岸の中腹に

あり、集落からは一度遠山川まで下り、須沢橋を
渡って今度は登り、都合一時間以上も歩か

ねばなりません。なぜこんな不便
な所へと思いましたが、以前は、祭りの前日に社まで道作

りをし、お篭もり
をしたものだと懐かしそうに話す人もいました。

 夕日天伯は、奥行き二間半、間口一間半の小さな社ですが、樹齢数百年を思わせる大きなナ

ラの木に囲まれ、悠然と構えていました。

 村人たちは社の中や周りを丁寧に掃除し、禰宜の大沢彦人さんは御幣を切ったりして祭りの

準備をし、午前十時ころ、全員が車座になります。

 禰宜が御神酒を供え、おはらいをし祝詞をあげると、全員が「トーボー神、エーミー神、

ハーライターマエ、キヨメターマエ」と唱え、これを二回繰り返
し終わりますが、少し前ま

では『四つ舞』を献納するほど賑やかだったとい
うことです。

 須沢地区は、八月の諏訪社例祭から十二月の霜月祭りまで毎月のように祭りが行われます。

そして、湯ノ沢(須沢橋)から一時間ほどの所に平松天伯、
さらに一時間も登ったところにリ

ケンの諏訪社があると聞き、先人たちの信
仰心には驚かれずにはいられませんでした。

(注)須沢地区は、平成十年十月の地滑り災害により、十一世帯に減っています。
この為夕日天伯の例祭は続いていますが、宇佐八幡社の霜月祭りは神楽の奉納のみのさびしい祭りとなっています。

     須沢 夕日天伯 1995.9

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