甘酒の好きな和尚さま




 昔或る所にお寺があった。

其処の和尚様はとても甘酒がすきで、しわん坊で、他人(ひと)にはちょっともやらず、

自分一人切りで飲んでは喜んで居った。

 お小僧はそれがいまいましくていまいましくて仕様がない。

何時(いつ)か和尚さまのすきに、一寸でもいいで飲んで見たいと思って居る中に、

或る日のこと、和尚様はお隣村まで御法事に行って留守になった。

 御小僧はシメシメと喜んで、和尚様の部屋に忍び込んで甘酒を探しまわる(うち)に、

押入れん(なか)に甘酒の入れ物を見付け出した。

 お小僧は、初めほんのちょっと飲む心算(つもり)で、チョビチョビなめて居る(うち)に、

どうも美味(おいし)くて仕様がない。

 もう一寸、もう一寸、云って居るうちに、とうとうみんな飲んでしまった。

「こりゃあしまった」と、思ったがもう仕様がない。

「和尚様が帰ったらどんねに叱られるか知らん」と、心配してウロウロして居る中に、

御本尊様の金佛に目が着いた。

 お小僧は俄かにニコニコし出して、先刻(さっき)の甘酒のかすを指の先きへ付けて来て、

金佛様の口べたにベタベタ塗り付けて置いて、知らん顔をして
自分の部屋へ来てお経を

読んで居った。

 外の方で和尚様の足音が聞えると、一寸覗いて見て赤い舌をペロンと出して、又大きな

声でお経を読んで居った。

 その(うち)に和尚様が帰って来た。

そうしてすぐ、甘酒を飲まっとして見ると、入れ物は空っぽになって、一寸もない。

「こりゃきっとお小僧()が飲んでしまったに相違ない」

と、真赤(まっか)になっておこり、頭から湯気をポッポッと立てながら、大きな声で


「コラ小僧、手前は(わし)の甘酒をみんな飲んじまったな」と云って叱った。

 するとお小僧は何にも知らん様な顔をして出て来て、

「イイエわしは何も知らんが、和尚様の大事な甘酒がありませんて、そりゃ不思議だ、

そう言やあ先刻(さっき)本堂の方で変な音がしたようだった」


と云う。

「どんな音がした」

と聞くと、

「何か飲む時のような音がして居ったで、事によると本尊様が飲んだんじゃありませんか」

とさも本当らしくに言うので、
和尚様も本気になり、二人で本尊様の側へ行って見ると、

ほんに口端(ぐちべた)へ甘酒が一っぱい着いて居るので、和尚様は益々怒って、

「毎日毎日、お経をあげて拝んでやるのに、人の大事な甘酒を盗んで飲むとはふとどきな奴だ」

と、庭から
割木(わっきぎ)を持って来て、本尊様をなぐり付けると本尊様は、

「クワン、クワン、クワン(食わん)」

と云う。

 和尚様はお小僧をつらまえて、

「コラ小僧、本尊様は食わん食わんと
云うじゃないか。嘘こき ()

と、叱り付けた。

 するとお小僧は

「和尚さま、和尚さま、わしは知らんが、そんなら大釜で煮て御覧なんしょ」

と云う。

 其処で今度は大釜に湯を一ぱい入れて、()え立たして、二人で本尊様をエッサエッサと運

んで行って、
釜ん内へ入れて煮たら、クッタクッタクッタクッタ(食った食った)と言った。

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