づくなし男

 


 むかしある
(とこ)にづくなしの男があった。

お神さんにお握飯(むすび)を拵えて其れを首へ縛り付けて貰って、懐手をして町へ用達しに出かけた。

 お昼時分になってお(なか)がへって来たけれど、づくがないもんで、自分でお握飯(むすび)を首

から取ることがいやで、誰か来たら取って貰わずと思って、
そのまま向うの方へ行くと、向う

から大きな口を
()いた男が来る。

「あんねに口を開いて居る(とこ)を見ると、()っぽどお腹が空いて居るに違いない。

あの人をたのんでお
握飯(むすび)を取って貰いましょう」と、

「もしもし わしはお握飯(むすび)を首に結び付けて居るが、手を出してそれを(ほの)くづくがない 

お前さんがそれを取って呉れたら半分だけ分けてあげず」と云う。

 すると口を開いた男が云う事に、

「わしはさっきから笠の紐が(ほの)けて困って居るが、それを結ぶづくがないので、

誰かに結んで貰わずと思って、()うして口を開いて
笠が落ちんようにして居る所だ」

と云った。

    
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