山寺の和尚とチンセイ糖

 

 

 昔山寺に和尚様があった。

その和尚様が金平糖(こんぺいとう)を買って来て、それを壷の中へ(しま)って置いて、

自分一人でおいしそうに食べて、お小僧には一つもやらなんだ。

 お小僧が或る日和尚様の部屋を覗いて見ると、

和尚様は一人でおいしそうに金平糖を食べて居る。

 お小僧は知らんような顔をして、其の次ぎの朝、

和尚様の部屋のお掃除をすると云って、わざと金平糖の入って居る壷をひっくり返した。

 壷の中から沢山の金平糖がガランとあかったのを見て、

「和尚様 和尚様 此れは何だります」と聞いた。

 和尚様は小僧に見付かって、此れはしまったと思ったが、

「小僧小僧 それはチンセイトウと云って大へんに毒の物で、ちょっと

食べても命が無くなる位なもんだ、拾って壷の中へ入れたら、

あとで井戸側へ行って手をよく洗って置かんといかんぞ」

と、うまく誤間化(ごまか)した。

 お小僧はただ「ハイハイ」と云って手を洗ってすまして居った。

 或る日和尚様が御法事があって、(ざい)の方へ行った留守に、お小僧は

和尚様の部屋へ入って行って、壷の中から金平糖を出して一つ食べて見ると、

頬たねが落ちる程おいしい。

 「もう一つ、もう一つ」と食べて居るうちに、とうとう(みんな)食べてしまった。

お小僧は和尚様が帰って来たら大へんに叱られると思って困って居ったが、

そのうちに和尚様が大事にして居たお皿を一枚こわって置いて、

布団を(かぶ)て寝てしまった。

 和尚様が帰って来て見ると、お小僧が布団を被ってウンウンうなって寝て居る。

 「小僧小僧 どうした」と聞くと

 「和尚様和尚様 申し訳のない事を致しました、

私は和尚様のお留守にお部屋の掃除をせつと思って、ついそそうして

和尚様の大事なお皿を一枚こわりました。

申し訳がないから死にたいと思いまして、こないだ和尚様が大へんに毒な物だと

教えて下さったチンセイトウを食べて、今に死ねるかと思って寝ておる所であります」

と云った。

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