山家の婿殿

 



  山家(やまが)の婿殿が嫁の(うち)へ行った。

嫁の家では婿殿が来たと云っていろいろなご御馳走を拵えて呉れた。

婿殿が見て居ると向うの方で家の衆が何か拵えて居る、

子供が其処へ行ってそれを欲しがると、「それは怖い(もん)だで食べれん」と云って脅かして居る。

 婿殿はそれを見てそんな怖い物を拵えて(なん)にするかと思って居ると、

そのうちに婿殿の前へそれを持って来て「何もないがサアおあがりなんしょ」と云う。

 婿殿はおっかなくなって、「お(なか)が一ぱいで食べれん」と云うと、

「折角拵えた物だに、食べれにゃあ仕様がない、

それでは家へ持って行って嫁にやっておくんな」と云って、其の御馳走を重箱へ入れて、

風呂敷(ふるしき)へ包んで持たして呉れた。

 婿殿はこりゃ困ったと思って、おっかなびっくり其の風呂敷の重箱を下げて

出て来たが、今にもお化けが出そうで怖くて怖くて仕様がない。

 向うの方を見ると、いいあんばいに長い物乾竿(ものほしざお)が一本あった。

 婿殿は早速その物乾竿を外して来て、そのうらんぼへ風呂敷包みを引っ掛け、

それを(かつ)いでやっと安心しながら家の方へ帰って行った。

 そのうちに竿の先きの重箱が竿を滑ってするするするっと落ちて来て、

婿殿の首の所へこつんと当った。

 婿殿はびっくりして、「それお化けが飛び付いた」と、其の竿を放り出して置いて、

丸くなって家へ逃げて来た。 

 家の人たちは婿殿の様子がどうも変なので、聞いて見ると、

「これこれこういう訳で、お化けが飛び付いて来た」と云う。

 家の衆は其んな筈はないと思って、婿殿が竿を放り出して置いた所へ

行って見ると、畑の中に、綺麗な風呂敷(ふるしき)に包まれたお重の中に、

美味(おいし)そうな御馳走が一ぱいにはいって居った。

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