山猫と猟師






 むかし山奥の一軒家に猟師があって、母親と二人きりで暮らして居った。

その猟師の(うち)へ一匹の可愛らしい猫が何処からか来たので、

猟師の母親は大へんに喜んで大事に飼って居った。

その猫は本当は山猫の化けたのだった。

其の時分、其の山の中には沢山の山猫が居って、いろいろな(わざ)をすると云って

村の人たちは皆怖がって居った。

猟師は「そんな悪い事をする山猫なら俺が鉄砲で撃ち殺してやりましょう」と、

或る日囲炉裏端で山猫を撃ちに行く鉄砲(だま)を拵らえて居った。

すると家の猫がその猟師の側へ来てじっと(たま)を拵える所を見て居る。

その様子がどうも猟師の拵える(たま)の数を一つ二つと勘定でもして居る様に見えるので、

猟師はおかしな猫だと思いながら、何か心に思い当たる事が
あったと見えて、

猫の見て居る所で十二の(たま)を拵えて、その他に一つ金の


(たま)を猫に知れんように用意して持って行った。

どんな猟師でも愈々と云う時には此の金の丸を撃つものだった。

猟師は十二の(たま)と、その金の(たま)とを持って、

鉄砲を(かつ)いで山の奥の方へ入って行った。

 そのうちに日が暮れたので、いつも寝る小屋へ入って休んで居ると、

夜半(よなか)頃にその小屋の近くへ魔物が寄って来たような気がした。

そこで猟師は鉄砲を持って小屋からそおっと外の様子を見ると、

まっ暗い中に二つの眼がちかちか光って、(なん)とも分からん物がだんだんに

小屋の方へ近寄って来るのが見えた。

 猟師は此奴(こいつ)怪しい物だと、早速鉄砲に(たま)をこめてドーンと撃ってやると、

チャリンと音がして(たま)は其処へ落ちてしまったようだった。

 猟師が又撃ってやると、又チャリンと音がして丸は其処へ落ちてしまった。

いくら(たま)を撃っても(みんな)チャリンチャリンと音がして一つも丸が当らない。

 猟師もこ此れはとびっくりしながらとうとう十二の(たま)を皆撃って(しま)って、

あとは金の(たま)一つだけになった。

 猟師は仕方がないので、一ばん(しまい)

その金の(たま)をこめてズドーンと撃ってやると、今度はチャリンと音はせずに、

確かに(たま)が当ったらしくて、

その魔物は大きな唸り声をあげて山の奥の方へ逃げて行った。

 猟師は夜の明けるのを待って、昨夜(ゆうべ)(とこ)へ行って見ると、其処に

何処かで見た事があるような茶釜の蓋が一枚落ちて居って、

其のそばに十二の(たま)がころがって居った。

 そうして其処から山奥の方へ血が大へんにこぼれて居るので、

だんだん其の血の跡をつけて行って見ると、一匹の大きな山猫が

胴を撃ち貫かれて、血だらけになって死んで居った。

 猟師は急いで自分の家へ帰って見ると、自分の母親は何かの為めに

喰い殺されて、そうして囲炉裡に掛けてあった茶釜の蓋が何処かへ()くなって居った。

 それは山猫があたりまえの猫に化けて猟師の家へ来て猟師を殺さっとしたのだった。

それで猟師が山へ出かけた留守に母親を喰い殺して置いて、

囲炉裡の茶釜の蓋を持って山へ行った。

 そうして猟師の撃ってよこす十二の(たま)を此の茶釜の蓋で受けて、

愈々(たま)が無くなった所で猟師を殺さっとしたのに、一ばんおしまいに

金の(たま)
を撃ってよこしたので、とうとう自分がそれで撃ち殺されたのだった。

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