針はよいよいよい



  
 
  ある村に夫婦者が住んで居ったが、亭主の頭に一本も毛のないのが悲しかった。

どうかして毛を
()やさっと思っていろいろして見たけれど、どうしても()えん。

此の上は神様にお頼み申すより外はないと、其処で夫婦は村の八幡様へお百度参りをして、

「どうか私の頭へ毛が()えますようにどうか亭主の頭へ毛が()えますように、若し毛を

()
やして下さったら、其のお礼に(かね)の鳥居を差し上げます、どうか毛を()やして貰

い申したい」と、一生懸命に
御立願(ごりがん)をかけた。

そうして少し経って見ると、亭主の頭にチョンチョンと黒い毛が生え出した。

「こりゃあ妙だ」、と見て居ると、

其のうちに眞黒い毛が一面に生えて来たので、二人は大喜びだった。

 そこで約束の
(かね)の鳥居を神様へ奉納せんならん事になったが、

「お金がなくてとてもそんな物を拵えて上げる事は出来ん、
と云って神様を欺しちゃあ申し訳

がない どうすりゃあいゝか」

と思案して
居るうちに、うまい事を考えついた。

 其処で夫婦は木綿針の太いのを三本持
って神様の(とこ)へ行って、

其の針のミゾの穴へ針の先きを通して、其れをお社の前でへお鳥居のように立てゝ、そして二

人で

「とゝさん頭ん (なた)で切るよな毛が生えた」   

と唄いながら、節面白く踊って居ると、そのうちにお社の(おくで)の方の扉がギーッと開いて、

白い着物を着た神様が出て来て、夫婦の唄う歌に調子を合わせて

「針はよいよいよい」

と唄いながら一しょになって踊った。

針でよけりゃあお(いとま)しますちゅって、夫婦は逃げる様にして帰って来た。

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