蛇と犬とお爺さんの話

 

 

 或る山奥の村にお爺さんとお婆さんがあって、お爺さんは猟師をして
犬を二匹飼って居った。

 或る日二匹の犬をつれて獲物を探して歩いて居ると、向うの方で(けむ)が出て火がボーボー

燃えて居った。

 お爺さんは大声を出して

「オーイ、そこで火を焚いちゃあいかんぞッ」

と呼ばったが何の返事もない。

 変に思って傍まで行って見ると、(だあれ)も居らなんで、

かわいそうに蛇が一匹
火の中に半焼になって苦しがっていた。

 (なさけ)深いお爺さんは大変気の毒がって、早速その蛇を助けてやると、

蛇は喜んで「命の親だ」と云って涙をこぼしてお礼を言った。

 そして「お礼の印に獣の言葉がわかるように教えて上げましょう」と言って、

犬の言葉や、猫の言葉や、その外色々の獣の言葉を教えてくれた。

そうして「此の事は外の人には教えてやってはいかん」と云った。

 そのうちに晩方になってしまったので、野原のまん中の大きな木の下で寝ることにした。

お爺さんはもうそんな事には慣れて居るもんで、じきに寝いってしまった。

お爺さんが権助八兵衛(ごんすけはちべい)に寝て居る最中、傍に居た二匹の犬が話を始めた。

 お爺さんはそれで目をさまして、黙ってじっと犬の話を聞いて居ると、

一匹の犬が云うことに

「おらあ 先刻(さっき)からどうか家のことが心配になってしょうがないが、どう言う訳づらなあ」

と云う。

 するともう一匹の犬も

「お前もそうか 俺も先刻(さっき)からそんな気がしていたが、どうも変だよ、

 ふたりとも同じことを思うなんて、きっと家の方に何かあるにちがいない、どうも心配になるなあ」 

 すると先の犬が

「俺がひとっとびに行って見てくるでなあ」

「そうか、そりゃあ御苦労だ、それじゃあそうしてくれるか」

 お爺さんはこの話を「犬が変な話をするなあ」と思って聞いて居ると、

一匹の犬が一目散にかけ出した。

 お爺さんは又知らんうちに寝入ってしまって、どの位経ったか知らんが

目をさまして見ると、さっき飛んで行った犬はもう帰ってきて、

又二匹で大きな声で話しをして居る。

お爺さんが耳をすまして聞いて居ると、

「俺が一生懸命飛んでって家へ着くと、丁度泥棒がはいる(とこ)さ、

お婆さんはそれを知らずに平気で寝て居るのよ、

俺はお婆さんを起さったと思って縁の下へ入ってうんと吠えて見たけれど、

お婆さんはそれでもまだ起きん、

仕方がないので、俺は座敷へとび上って行ってじかにその泥棒に吠えついてやった、

そうしたらお婆さんもようやく目をさまし、泥棒もおっかなくなって逃げ出した、

それで俺もやっと安心して帰って来たよ」

「そうか、そりゃあ御苦労だったなあ」

 そのうちに夜があけて、お爺さんは二匹の犬をつれて家へ帰って来た。

そうしてお婆さんに「ゆんべ家に何かあったずらよ」と言ったが、

お婆さんはうそを言って「いんね、何もありゃせん」と云っていた。

 お爺さんは「たしかに何かあった筈だ」と云うと

「どうしてそんな事がわかるな」ってお婆さんが云ったけれど、

お爺さんはただにこにこ笑っていただけだった。

 それから、へえそれでおしまいな。

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