お国自慢

 

 
 昔、伊勢の人と、美濃の人と、三河の人と、大津の人とが旅先で同じ宿屋へ泊った。

 伊勢の人が

「伊勢の天照皇太神宮様には、八十末社という沢山のお宮があるが、

一里四方へ枝を広げた大木があって、八十末社は皆その大木の枝の下にある」
と云った。

 すると美濃の人が

 「それは珍しい話だが、美濃の國には一里四方へ広がるような大きい牛の皮がある」と云った。

 大津の人も負けん気になって

 「(わし)の國には一里四方へ(つる)を延ばした自然薯(じねんじょ)がある」と云い出した。

それまで黙って(みんな)の話を聞いて居った三河の人が、

(わし)の國にはとても大きい太鼓がある。

その胴は伊勢の國の一里四方へ枝を広げた大木で造り、皮は美濃の國の一里四方に広がる

牛の皮で張り、緒締(おじ)めは大津の一里四方へ延びた自然薯の蔓で締めてある、

そうしてこれを叩くと八十末社へ鳴りひびく」と云ったので、

今まで自慢をしていた人達はけっこう負けてしまった。

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