彼岸とヒーガン

 


 ある年の事、春が来たので、其の
(うち)の嫁が「彼岸が近くなった」と云うと、
其れを聞いた
(しゅうとめ)は「ヒガンじゃあないヒーガンだ」と云い出した。さあそれからと云うものは、彼岸とヒーガンで嫁と姑が仲違(なかたが)いをしてしまった。 さんざ云い合った後で、「それじゃあお寺の和尚様に本当の(とこ)を聞いて見まいか」
と云う事になった。
 すると姑は、こっそり嫁に内緒で、箪笥に(しま)って置いた十反の

木綿のうちの
五反を持ち出して、和尚様にそうっと其れをやって、「ヒーガンの方へ味方をしてお()んなんしょ」と頼んだ。 嫁も抜からず、此れも内緒で残りの五反の木綿を持って和尚様ん(とこ)へ行って、
「自分の方へ味方をしてお()んな」と頼んで来た。 
さて愈々其の日になると、嫁と姑の二人はお寺へ行って和尚様の
(まえで)へ坐った。
そうして二人共てんでに自分の方へ和尚様が味方をして
()れると思って喜んで居った。 そこへ和尚様が、尤もらしい顔付きをして出て来て、さて云う事に、

「そもそも七日ある中で、前の三日がヒガンで、後の三日がヒーガンじゃ、

そしてあとの一日は和尚の預かりにしとく」
と申し渡して、
「これでお前たちの(うち)にもめ(木綿)がなくなったわい」
と云った。   

次の作品へ