千代松と桔梗が原

 

 
 むかし或る
(とこ)に千代松と云う子供があった。

(かあ)様に死に別れて、お父様(とっさま)と二人で暮らして居るうちに、

千代松の
(うち)へ継母が来る事になった。そして弟の伊予松と云う子が生まれた。

 継母は伊予松が生れてからは千代松が憎くて憎くてたまらんようになった、

そうしてどうにか殺して(しま)わっと思って居った。

 ある日お父様は商売に遠くの方へ出かけて行った。

継母は「此りゃあいいあんばいだ」と思って、悪者をたのんで来て相談をした。

継母は千代松に「お前は死んだお母様のお参りに、此のおじさんと善光寺へ行って来い」

と云った。

 千代松は何も知らんもんで、其の人について旅へ出かけて、

桔梗(ききょう)が原と云う(さむ)しい原のまん中まで来ると、その人は千代松を殺して

(ばか)の間へ埋けておいて帰って来た。

 そのうちに父親が帰って来たけれども、継母は何にも知らん様な顔をして居った。

 父親は千代松が居らんので、「千代松はどうした」と聞くと、

「千代松は善光寺へお参りに行ったで、今に帰って来るら」と云って平気で居った。

 父親は本当だと思って、今日は帰るか、明日は戻るかと思って

戸間口(とまぐち)(とこ)へ立って待って居ると、鶏が裏の畑で

千代松は 千代松は 桔梗が原に今日七日 父が恋しと トチチリチン

と云って啼いた。

 父親はそれを聞いて、「不思議だなア」と思って桔梗が原へ千代松を捜しに行った。

 だんだんに原の中の方へ行くと、土が高く盛りあがった(とこ)があったので

掘って見たら、中から千代松の死骸が出て来た。

 お父様は悲しくなって泣きながら、お坊様をたのんでお葬いをして

貰って家へ帰って来て、すぐに継母を追い出してしまった。

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