本尊様とお萩の餅 |
山寺に和尚様があった。
吝
今日もお隣からお萩を貰ったもんで、和尚様は喜んで、「一人で食べず」と
思って居ると、村の百姓が「御法事に来ておくんなんしょ」と云って来た。
和尚さまは仕方なしに、其のお萩を戸棚の中へ蔵って、
「小僧 小僧 わしの帰るまで手を付ける事はならんぞ」
と云って置いて御法事に出かけて行った。
あとでお小僧たちは、其のお萩が食べたくて食べたくて仕様がない。
そのうちに一人のお小僧が「たった一つっきり」と云って戸棚の中のお萩を一つ食べると、
他のお小僧も、「俺も一つっ切り」と云って食べる。
「一つっ切り一つっ切り」と云って食べとるうちに皆食べてしまった。
「さあ困った、和尚様が帰って来ると叱られるに違いない、どうすりゃあいいか」
とお小僧たちは青くなって心配しとると、
其のうちの一人が「いい事を考えた」と云って、
お萩の餡を本尊様の口べたへ一めんに塗り付けて置いておいて、知らん顔をして居った。
そのうちに和尚様は、「早く帰ってお萩を食べず」と思って、
楽しんで帰って来て見るとお萩が一つもない。
「小僧 小僧 さっきのお萩はどうした」とお小僧たちを叱ると、
お小僧たちは、「わし等あ、そんな物は知らんがなむ」と云って居る。
そのうちに一人のお小僧が、「そう云やあ、先刻戸棚を開ける様な音がした。
事によったら、本尊様がお食べになったのじゃあないかな、
和尚様 本堂の方へ行って御覧なんしょ」と云う。 和尚様はそう云われて、急いでお小僧た
ちと一しょに本堂へ行って見ると、成る程、本尊様の口べたに一めんと餡が付いて居る。
「和尚様 和尚様 その本尊様を一つ叩いて御覧なんしょ。きっと白状するに」と云われて、
和尚様は「日頃毎日お経を読んで上げて居るのに、俺の大事なお萩を無断で食べるとは
そりゃ非道い」と棒を持って来て、
本尊様の頭を叩くと、「クワン、クワン」と云う。
「小僧 小僧 本尊様は食わんと云うじゃあないか」と云うと、
お小僧は「和尚様 それじゃあ今度は釜へ入れて煮て御覧なんしょ」と云う。
そこで早速大釜へお湯を一ぱい入れ、本尊様をそん中へ入れて煮たら、
今度は「クッタ クッタ クッタ クッタ」と云った。