石の正兵衛

 

 
 昔或る村に正兵衛(しょうべえ)と云ってたいへん情深い正直な爺さんがあった。

家は貧乏だったが、犬と猫と蛇を大へんかわいがって飼って居った。

 所が其処の殿様は意地の悪い人で、その正兵衛(しょうべえ)のことを聞くと、
「犬や猫は人の(うち)で飼うものでいいが、蛇を飼うのはけしからん」、

と云って殺すことをきびしく申しつけた。
 正兵衛(しょうべえ)はせっかく飼って置いたものを殺してしまうのは、可愛想(かあいそう)だと思って、
箱ん中に入れて、
(だあれ)にも知れん様に縁の下へ
隠して置いた。

するとこの事が何時の間にか殿様の耳に入った。

「俺の云うことをきかん奴は召し取って首をはねる」と云い出した。
仕方なしに正兵衛(しょうべえ)は蛇に向って
「お前をこのまま飼っておくと
(わし)が殺されるそうだ。

気の毒だがお前をすてにゃあならん而うっかり近所へ捨てたら

殿様の家来に見つかって殺されるか知れんで、暫くの間辛抱して呉りょう」

と云いきかせて箱ん中へ入れ、そん中へ沢山に好きな餌を入れて、奥山の岩の間に置いて来た。

 次の日正兵衛(しょうべえ)は山へ柴刈りに行き、柴を一と背負(しょい)しょって帰る途中で重たくな

ったので、木の根に腰をかけて休んで居ると、睡たくなって、とうとうぐっすり寝こんでしまった。

 
目がさめて起きっとしたが荷が重くて中々おきれん、

変だと思ってよく見ると、いつの隙にか昨日捨てた蛇が荷物の上にのさって居った。

「なんだお前か、それにしても馬鹿に重いじゃあないか」と云うと、

蛇はやさしく頭を下げて

「ながなが可愛がって下さって、その上今度お暇乞いをする時でも、沢山の餌までいただいて

有難うございました。就てはそのお礼に差し上げたいものがある」

と云いながら、
大きな口をあくと、口の中からころりと丸い玉がころがり出て、

それと
一しょに蛇の姿は消えてしまった。

 正兵衛(しょうべえ)は喜んでその玉を持って帰って来た。

不思議にもそれから正兵衛(しょうべえ)には(しや)合せが続いて、

何でも()いと思うものがあると、何時かちゃんと
(うち)にある様になった。

そのおかげで
正兵衛(しょうべえ)はだんだん
身上(しんしょう)がよくなった。

 すると又此の事が悪い殿様の耳に入った。

殿様はその石が(ほし)くなったので、正兵衛(しょうべえ)を呼び出して、

「きさまは珍しい石を持って居るそうだ、一度俺に見せろ」

と云って其の石を取り上げてしまった。

それでも正兵衛(しょうべえ)はおとなしく我慢をして居ったが、(うち)に飼ってある犬と猫とが承知せん、

 或る日犬と猫は相談して、お爺さんには内緒でその石を取り戻しに出かけた。

殿様はその石を土蔵(くら)にしまって置いたら、犬が其の(しま)ってある(とこ)

嗅ぎつけて土台の下を掘り猫がその穴からもぐりこんで行って、うまくその石をとり返した。

帰りにはどうしても或る大川を(わた)らにゃあならん。

そこで犬は猫を()ぶって川を泳いで渡って行くと、

川の真中で猫は一匹の魚を見つけたので、「思わず、やあうまそうな魚が」

と云ったら、そのはずみに
口にくわえて居った大事な石がポチョンと川ん中へ落ちてしまった。
猫は「申しわけがない」と云ってそのまま川へ飛び込んで死なっとしたが、犬がなだめて二人

は家へ帰って来た。

そしてお爺さんの前へ来て今日のことを話してあやまった。

 猫は「申しわけのない事をしたでどんな重い罰でもして下さい」と云うと、

正兵衛(しょうべえ)は頭をふって「いやいやそんな心配はいらんことだ、それよりか明日は何か御馳

走をしてやらず」と云った。

 あくる日お爺さんは網を持って大川へ魚とりに行くと大きな鯉がとれた。

大よろこびで(うち)へ帰って来て其れを(りょう)って見ると、その大鯉の腹ん中から昨日猫が

落とした石が出てきた。

 石は又お爺さんの手に戻った。

そしてお爺さんは又(しや)合せつづきの身となって、

犬と猫と三人で何時までも
(らく)に暮らすことができた。

そして誰言うとなくお爺さんのことを石の正兵衛(しょうべえ)と云うようになった。

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