こぼしたご飯 |
或る村にお大尽の家があって、一人の下男がそこに働らいて居った。
その下男は悪いくせで、御飯の時、こぼした御飯粒を拾って食べることが
いやで、膝の上のまでばらばらと下へ払い落してしまった。
その家のお神さんはそれを勿体ないと思って、
そのたんびにこぼれたご飯粒を拾って、きれいに洗って干して置いた。
毎日毎日二度三度のことなので、幾年かの間に積り積ってとても沢山になった。
其の後その下男は暇を貰らって出て行った。こんな悪い癖の男だもんで、
何処へ行っても働かしてくれる所がない。
とうとう乞食になりさがって、村々を貰い歩いて居った。
そうして廻り々々ってもと使つて貰って居ったお大尽の家へ来て門口に立った。
お神さんが出て来て「おや お前は」と云ってじっとその乞食の顔を見て居ったが
「そう言やあほんに、お前のお米が家にしまってあるよ」
と云って、洗っては干してしまって置いたお米を大きな袋へ一っぱい持って来て呉れた。
乞食はそれを見て、昔の悪い癖を思いだして、大切なお米を粗末にした事が悪るかったと
漸っと気が付いて、その親切なお神さんの前へ手を突いて謝まった。